子宮腺筋症に対する腹腔鏡下手術
概要
子宮腺筋症に対する手術は、一般的に子宮全摘術が選択されるが、妊孕性温存が
必要な症例や子宮全摘を希望しない症例には、腺筋症切除術が適応となる。
本術式の施行報告症例は少なく、数編の症例報告があるに過ぎず、月経困難症や
月経症状に対する治療効果、妊孕性温存に関しても明確な解答は得られていないが、
われわれは月経困難症や過多月経に対して腹腔鏡下子宮腺筋症切除術を試み、良好な
成績を得ている。
術前処置
子宮体積の減少や術中出血量軽減のために、術前にGn-RHaを4〜6ヵ月間使用する。
一般的に子宮腺筋症は、子宮筋腫のように極端に大きなものと遭遇することは少ないが、
腹腔鏡下手術は限られた視野の中で施行されることを考えるとこの処置は必要不可欠である。
また、Gn-RHaを使用することになり腺筋症切除術における核出操作時において、正常子宮
筋層と腺筋症部分の境界がより判別しやすくなり、正常子宮筋層を極力残すことが必要な核出
操作のためには重要なこととなる。
腹腔鏡下子宮腺筋症切除術
腹腔鏡下子宮腺筋症切除術は、基本的に、腹腔鏡下子宮筋腫核出術と同一の手順で
行われる。したがって、腹腔鏡下子宮筋腫核出術を普段行っている施設においてはさほど
複雑な新しい操作を必要としない。
1.腹腔内の観察
所定の器具を設置した後、腹腔内の観察を十分に行い、画像診断を参考に子宮筋層切開
予定を慎重に決定する。鉗子による触診では、子宮筋腫と比較して、弾力性を欠く周囲の筋層
と境界不明な腫瘍として触知され、改めて腺筋症であることが確認できる。またこの際、子宮お
よび付属器周囲に癒着を認めた場合は、腺筋症切除術以前に剥離操作を行っておく。
2.vasopressin生食の局注
術中出血量減少を目的に、腺筋症部分に100倍希釈したvasopressin生食を局注する。この
操作のとき、子宮筋腫であれば筋腫と筋層の境界が明瞭なためvasopressin生食は筋腫核全体
にひろがるが、子宮腺筋症の場合均等にはひろがらず、あたかも皮下注射のように膨張して局注
される。これも子宮腺筋症に特徴的な所見である。
3.子宮漿膜および筋層の切開
腺筋症の位置や縫合操作を考え、腺筋症部分にHarmonic Scarpelなどの超音波切開凝固
やレーザーメスを用いて横切開または縦切開を加える。子宮腫瘍を摘出する場合、その切開
方向は子宮前壁においては縦切開、横切開ともに大きな差は認めないが、後壁においては
横切開が縦切開に比べて、出血量・縫合操作の面から圧倒的に有利である。
このとき子宮筋腫核出術と同様に切開を腺筋症病巣深部にまで加え漿膜と腺筋症の境界
を多く露出させる。
4.腺筋症病巣の核出
2本の鉗子を用いて子宮筋腫核出術と同様の核出操作を行う。子宮筋腫と異なり正常子宮
筋層と病巣部の境界は不明瞭で、核出操作は多少困難であるが、正常子宮筋層と腺筋症病
巣の硬度には明らかな違いがあるため丁寧な剥離操作によって核出可能となる。
この際、主症状軽減のためには出来うる限り多くの腺筋症部分を核出する必要性が有り、
子宮内膜を穿破する可能性も生じる。
5.子宮筋層および漿膜の縫合
2-0オペポリックスなどの合成吸収糸を用いて、子宮筋層に可能な限り死腔を残さないよう
に埋没縫合を加えた後、子宮筋層および子宮漿膜面を8字縫合する。限られた空間での、
緩みのない縫合操作の必要な腹腔鏡下腺筋症切除術や筋腫核出術では、8字縫合は止血
効果も高く接着が良好で非常に有効な縫合操作である。
6.切除病巣の搬出
筋腫核搬出操作と同様に、モルセレーターなどの搬出器具を用いて体腔外へ搬出する。
これらの搬出器具がなく摘出病巣が比較的小さい場合、ダグラス窩経由などのそのほかの
搬出方法を考慮する。
7.癒着防止操作
最後に、インターシードやタココンブなどの癒着防止シートを子宮切開面に貼付する。
子宮腺筋症に対する子宮腺筋症切除術は、子宮全体にび漫性に広がる病巣では
なくある程度限局性の病巣であるときのみ適応となる。
まとめ
子宮腺筋症切除術の主症状に対する効果に関して、50%以上との報告や、81%
(58例中47例)に月経痛の改善を認めたとの報告があり、治療抵抗性の不妊症患者
において61.5%(26例中16例)の妊娠が成立し、全例が出産に至ったとの報告や
45.9%(37例中17例)に妊娠が成立し16例で生児を得たとの報告もあるが、全体的な
症例報告も少なく追跡期間も短いことから、明確な治療効果や治療の選択基準も定まって
いないと言える。
しかしながら、限局する子宮腺筋症で、子宮の温存を強く希望し、患者に対するインフォー
ムコンセントの得られている症例に対しては、子宮腺筋症切除術を考慮することも必要で
あると考えられる、実際、これまでに腹腔鏡下子宮腺筋症切除術を施行した症例は、
Gn−RHa中止後ほぼ2ヵ月目までに月経が再来したが、月経困難症および過多月経症状
は完全に消失しており良好な術後成績が得られている。
( 参考文献 永井書店 『産婦人科治療』 2002年8月号
雑誌 04091-8 T1104091082521 定価 本体2,400円+税
vol.85 no.2 特集 最近話題の手術 P175〜180
「子宮腺筋症に対する腹腔鏡下手術」
東邦大学医学部第1産科婦人科学教室
中熊 正仁氏 、森田 峰人講師、久保 春海教授 より抜粋しました。 )