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 子宮腺筋症と不妊治療

 妊孕性の温存を前提とした治療について述べる。
基本原則はホルモン療法、手術療法、ART療法を個別の症例に応じて使いわけること
である。


1.ホルモン療法

 慢性骨盤痛chronic pelvic pain(CPP)のため性交障害をきたしている症例には鎮痛剤
投与がQOL改善のため必要であるほかは、ホルモン療法が薬物療法の主体である。 
ホルモン療法としては、偽妊娠療法は過去のものでGnRHアゴニストかダナゾールによる
偽閉経療法に置き換わった。4週期を1クールとして3〜6クール施行する。

 アゴニスト療法の原理は、ゴナドトロピンをカットしてE依存性病巣をアポトーシスに陥らせ
ることであるが、内膜症に対するほど効果は期待できない。その理由は腺筋症を構成する
腺上皮が内膜基底層の腺細胞に由来しており、ER発現が機能層細胞のそれより弱いため
であろう。

 これに対しダナゾール療法は、ゴナドトロピン抑制作用はアゴニストほどではないが、病巣
への直接作用がある。その機序はまだ解明されていないが、アンドロゲン・レセプターを介す
るアポトーシス誘導作用のほか、aromataseP450の活性阻害による病巣内E産出抑制も寄与
していると考えられる。

 EBMの立場からすると、アゴニストにしろ、ダナゾールにしろ、内膜症に対する単独療法の
有効性は疑問視されているので、腺筋症にはそれ以上に期待薄といわざるえない。
不妊の発生機序は着床障害と考えられるが、腺筋症における内膜不全を正確に評価できる
データはない。印象としては、手術療法後の内膜の性ステロイドに対する反応性は良好に保た
れてはいるが、腺筋症ではむしろ不良である。ホルモン療法の終点は、J-zoneが5mm以下
になることを一応の目安とすればよい。

2.手術療法

 具体的な手術手技については、杉並の考案した方法や当クリニックで1986年二前院長
渡辺栄三が初めて試みたわれわれの方法を参照して頂くとして、ここでは適応について
触れておきたい。当クリニックでは、腺筋腫に対しては、手術療法を第一選択としている。

 瀰漫性腺筋症は、手術療法の適応ではない。ただし、岡村らのcytoreductionを目的と
した不完全摘除も考えてもよいが、妊娠成立を目標とした場合の効果は、今後の検討を
待ちたい。1996年から現在に至るまで、追跡可能であった20例(25〜43歳)中5例(25%)
が術後自然またはAIHで、妊娠、分娩に至っている。(表2)

 術前のホルモン療法は、腫瘤と正常筋層との境界を不明瞭とし、手術操作を困難とする
ので行わない。どうしても必要な場合には、ダナゾール療法を行う。また、病巣が広範で
核出が不完全に終った場合、内膜症を合併している場合には、術後、アゴニストまたは
ダナゾール療法を追加する。ダナゾールの方が、術後妊娠率が高い傾向がある。骨盤膣
中隔腫瘤も手術療法の適応となり通例術後の再発はない。

 腹腔鏡手術か開腹術かについては、病巣の部位や広がりによって使い分ける。腹膜
内膜症の合併が疑われる時は、診断と治療を兼ねて、腹腔鏡、骨盤膣中隔腫瘤(腺筋腫)
や深部浸潤性内膜症に対しては病巣の完全摘除を目指して開腹術とする。

3.ART療法

 術後あるいはホルモン療法後は、妊娠成立の好機であるので、タイミングなどの待機
療法 expectant management を行う。それでも妊娠しない場合、ARTの登場となる。
 ARTの効果を最大限に引き出すためには、あらかじめ腹腔鏡などの手術操作により、し
ばしば合併している骨盤内膜症病巣の除去や癒着剥離などのART準備態勢を整えて
おく。

 内膜症を合併していない腺筋症に対するARTは、未知であるが、内膜症に対するほどの
治療効果は期待できまい。不妊機序としては、着床障害が最も考えられるので、ホルモン
療法により、あらかじめJ-zoneを5mm以内に抑えておくことを目標とする。そのため、過排卵
刺激には、ultralongあるいは少なくてもlongプロトコールを採用すべきである。

   おわりに

 子宮腺筋症は、難治性不妊のなかでも、最も取り扱いに苦慮するものである。病態的には、
子宮内膜症と子宮筋腫の中間に位置するためか、clinical entityとしても、発生病理的にも
不明確な点が残されている。本症についてのTBMが進み、よりよい治療法の開発が望まれる。

                     表 2  子宮腺筋腫の治療成績
               ( 醍醐渡辺クリニック 平成7年〜14年 20例 )

調査項目 調査結果
 手術時年齢 29歳から40歳まで。平均33.5歳
 妊娠・分娩歴 40%が経産、30%が流産または人工妊娠中絶、5%が子宮外妊娠
  発生部位 後壁が65%で最多、前壁25%、ほか底部10%
病型(USI、MRI) すべて子宮腺筋腫、子宮腺筋症は手術適応外、直腸膣腺筋腫はなし
  合併症 子宮内膜症(55%)と子宮筋腫(25%)
 ホルモン療法 ダナゾール+アゴニスト、あるいはアゴニスト単独
      術前 60%(12例)に実施、妊娠例なし
      術後 50%(10例)に実施、うち3例が妊娠
  ART療法
      術前 10%(2例)に実施、妊娠例なし
      術後 30%(6例)に実施、妊娠例なし
  術後妊娠 25%(5例)が自然またはAIHで妊娠、3例が出産し、2例が流産

 ※深部浸潤型子宮内膜症は、調査対象外とした。


( 永井書店 『産婦人科治療』2003 vol.86 no.6 定価 本体2,400円 
      T1104091062523   特 集 子宮内膜症のEBMとTBM 

「子宮腺筋症」 P 1102〜1104 より抜粋しました。
渡辺 浩彦  森 崇英※    
醍醐渡辺クリニック 院長 ※不妊センター長(京都府))