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 低用量ダナゾール(L−Dz)療法

  はじめに

 今日、子宮内膜症(内膜症)に対する偽閉経療法として、gonadotropin releasing
agonist(GnRHa)およびダナゾールは、高い有効性を示すが、長期間投与では、高脂血症
、骨密度低下などの問題が存在する。また治療後には、症状再発も多く、一度改善した状
態をいかに継続できるかが内膜症治療における重要な課題となっている。本稿では、内膜
症患者の治療に、GnRHaによる偽閉経療法に引き続いて低用量ダナゾール(L-Dz)を長期
間投与する方法の有用性について、著者らの前方視的検討を概説する。

1.ダナゾール

  ダナゾールは、エチステロン(17α-ethinyl testosterone)の合成ステロイド誘導体で、
偽閉経療法における通常投与量は、400mg/日である。ダナゾールは、弱いながらも男性
ホルモン作用を有しているので、長期投与では、卵巣欠落症状に加えて、体重増加、多毛
、肝機能障害、血栓症などの副作用が報告されているが、100ー200mg/日の低用量では
、そのリスクは低下するとされている。

2.低用量ダナゾール療法

  今日の内膜症治療を考えるうえで最も重要なことは、一時的な治療効果ではなく長期間に
わたり、持続的に内膜症病巣の活動性や進展を抑制する方法の確立であると思われる。その
際には、異所性子宮内膜組織の増殖は抑制するが、骨密度維持に必要なエストロゲンは維持
する。いわゆる therapeutic window を目標とすることが求められている。しかし、現在偽閉経
療法において選択可能な治療薬としては、複数のGnRHa製剤とダナゾールのみであり、これらを
組み合わせる方法で対応しなければならない。

 その中でGnRHaは、投与方法が経鼻腔および皮下投与である点で、持続的卵巣機能抑制に
は適しているが、血中エストロゲンを前述の therapeutic window レベルを維持する調整性は
乏しく、一方のダナゾールは調整性の高い経口投与であることから、ここに低用量ダナゾール
療法の存在意義があると思われる。

a. 低用量ダナゾール療法のプロトコールと臨床成績

 最近著者らは、挙児希望のない内膜症患者22例を患者の同意の下に、A群(低用量ダナゾ
ール療法群:10例)とB群(対照群:12例)を無作為に分類し、低用量ダナゾール療法の有用
性を検討したので、ここにその成績を述べる。A群では、最初4ヶ月間GnRHa(900μg/日)投与
を行い、その後にダナゾールの通常使用量の2/1である200mg/日を6ヶ月間追加投与した。
B群は、GnRHa治療後経過観察とした。

1)臨床症状の評価と血中CA125

 A,B両群ともに疼痛を主体とした臨床症状は、4ヶ月間のGnRHa治療によって大きく改善
していたが、その後6ヶ月時における月経痛および下腹部痛それぞれの再発率は、A群0%、
10%、B群では、41.7%、25%とA群が有意(p<0.05)に低率であった。また、GnRHa治療
によって血中CA125値は、両群ともに明らかに低下した。しかし、その後の6ヶ月終了時には、
A群では、15U/ml以下の低値を維持したが、B群では、徐々に増加する傾向が認められた。

2)低用量ダナゾール療法と脂質代謝

 治療経過中の脂質代謝の変化に関して、総コレステロール(TC)、高比重リポ蛋白コレステロ
ール(HDL)、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL)、トリグリセライド(TG)、リポ蛋白a(Lp(a))
を測定した。

 その結果、GnRHa治療によって血中HDL値は、有意(p<0.05)に減少したが、その後の6ヶ月
間では、正常月経周囲に復帰したB群では、治療前のレベルに回復していた。一方、低用量
ダナゾール療法のA群では、平均値では、B群より低いレベルではあるが、回復傾向が認めら
れた。また、血中TC,TG値には大きな変化は認められなかった。動脈硬化の憎悪因子である
血中Lp(a)値は、個人差が大きく、8-12mg/dlの高値例と2-6mg/dlの低値例に区別されたが、
低用量ダナゾール療法では、特に大きな変化は認められなかった。

3)骨密度(bone meneral density:BMD)検査

 BMDは、腰椎(L2-L4)を対象として。治療開始前後にBMDをQDR4500(Hologic社)を
使用して測定した。評価判定には、T−score(性別若年齢健常対照者)およびZ−score
(性別同年齢健常対照者)を用いた。BMDの結果は、GnRHa治療前と最終評価の時点に
おいて、A群:0.99→0.98g/cm2 ,B群:1.02→0.95g/cm2と軽度の減少が認められた。

 しかし、低用量ダナゾール療法においては、T−scoreおよびZ−scoreの変化率は、ともに
-1.4%とわすがで、有意な変化は認められなかった。

 以上の成績から、今回検討した低用量ダナゾール療法は、GnRHa投与投による臨床症状
の改善状態を少なくても6ヶ月間維持可能であるとともに脂質代謝や骨密度にも大きな影響
を与えないことが示され、当初の'一度改善した臨床状態をてかに維持できるか'という目的を
一応満たす結果となった。

3.長期間の低用量ダナゾール療法

  本稿で述べた低用量ダナゾール療法は、6ヶ月継続における評価であるが、更に長期間
投与の安全性や繰り返し治療の有用性、再現性の評価が残されている。こうした点に関して
、少数例であるが、6ヶ月以上の低用量ダナゾール療法および繰り返し治療を実施している
症例があり、その一例を紹介する。

 症例は、45歳、月経痛・下腹部痛を訴えて来院した。既往歴に、他院にて卵巣内膜症嚢腫
摘出術を受けており、再発性の内膜症と診断した。本人の十分な同意を得て、1996年4月〜
97年6月まで、GnRHa治療(4ヶ月間)と低用量ダナゾール療法(10ヶ月間)を連続して実施し、
血中CA125およびE2の推移を観察した。

 GnRHa治療後の血中CA125は、顕著に低下したが、E2も同時に30pg/ml以下が持続した。
これに対し、低用量ダナゾール療法中は、血中E2が、70-100pg/mlと卵巣機能は回復し月経
も認められるにもかかわらず、血中CA125は、10-20U/mlと10ヶ月間低値を維持し、月経痛
もほとんど認められなかった。同様な臨床経過は、1997-98年の1年間においても確認され、
低用量ダナゾール療法の長期投与の有用性と再現性が示されたと思われる。

   おわりに

 現在、内膜症に対する保存的治療の中心は偽閉経療法であるが、前述のごとく長期間
の治療は、低エストロゲンによる骨密度の低下や脂質系への影響などが指摘されている。
そこで、偽閉経療法によって改善した状態を維持する治療法の開発が望まれている。最近、
こうした臨床上の問題を解決する手段として、GnRHa投与とホルモン補充療法を同時に行う
’add-back療法’が試みられている。しかし、薬理作用が相反する薬剤の併用は煩雑であると
同時に医療費の点で問題が多い。

 その点、低用量ダナゾール療法は、通常投与の2/1量(200mg/日)であるという単純で
安価な方法である。著者らは、本法の前方視的検討を試みた結果、6ヶ月間は偽閉経療法
で得られた治療が意地可能であることが示された。また、偽閉経療法中のHDL低下が回復
すること、Lp(a)には、有意な変化はないなど、脂質系に対する悪影響は認められず、また骨
密度への影響もほとんどなく、安全な長期投与が可能であることが示唆された。

 最近、内膜症のpelvic pain緩和を目的として、更に低用量ダナゾール(50-100mg/日)治療
や、また低用量経口避妊薬を併用する臨床研究が報告されている。しかし、脂質代謝や骨密
度への影響に関しては、十分に検討されておらず、今後長期的な低用量ダナゾール療法の有
用性について、以上の課題を含めた多施設による前方視的検討が必要と思われる。 

1.対象:1997年1月〜98年12月

病期分類(r−AFS)
症例数 年齢 体重(kg) T U V W
A群(L-Dz群) 10 39.7±4.5 55.3±3.8 0 4 5 1
B群(対照群) 12 40.8±4.2 53.9±5.1 0 8 3 1


2.方法

 A群 GnRHa(酢酸ブセレリン 900μg/日) 4ヶ月後、ダナゾール200mg/日 6ヶ月
 B群 GnRHa(酢酸ブセレリン 900μg/日) 4ヶ月

3.調査項目

   臨床症状:月経痛、下腹部痛、性交痛など
   血液検査: CA125,CA19-9,肝機能,凝固機能
          総コレステロール(TC),高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)
          低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C),中性脂肪(TG),リポ蛋白a(Lp(a))
   骨密度検査:腰椎(Hologic社,QDR4500)

     GnRHaおよびL−Dz治療前後の臨床症状と検査成績

GnRHa
治療群 治療前 治療後 6ヶ月後
(症例数)
(10) (12) (10) (12) (10) (12)
 月経痛 12 5(41.7%)※
 下腹部痛 1(10%) 3(25%)
 性交痛 2(20%) 2(16.7%)
 肝機能障害
 (GPT≧35U/ml) 1(10%)
 凝固機能異常
 CA125≧35U/ml 10 12 4(33.3%)※

※p<0.05

(  日本臨牀59巻 増刊号1 (2001) P145〜151より抜粋しました。
 
  防衛医科大学校医学教育部産科婦人科
   
          古谷 健一  村上 充剛  水本 賀文
          徳岡  普   牧口 紀子  永田一郎
                                           )

 講演2 「子宮内膜症に対する低用量ダナゾール療法の効果
             −QOLを中心に−」


           東京女子医科大学産婦人科学 助教授 安達 知子

増加傾向にある子宮内膜症

 子宮内膜症は、基本的に子宮の内膜および類似の組織が、子宮内腔および子宮体部筋層
以外の骨盤内で増殖する疾患で、最近、増加傾向にあります。悪性腫瘍を除く婦人病手術の
20%に子宮内膜症が認められるという報告がありますが、自験例では小さな病巣も入れると
約50%に認められています。また、原因不明の不妊症の30%〜60%に子宮内膜症存在します。

 年齢別では、20歳から閉経まで均等に認められ、平均37.1歳といわれていますが、10歳代
から認められるという報告もあります。

 好発部位は、小さな病変も入れると卵巣が80.7%と多く、卵巣の病変が大きくなると卵巣チョ
コレート嚢胞を作ります。そして、子宮奬膜、ダグラス窩、仙骨子宮靭帯の子宮内膜症は性交痛
の原因となりやすく、直腸やS状結腸の子宮内膜症は肛門痛や排便痛を起こすことがあります。
 また、卵管や広靭帯、膀胱にもしばしばみられ、稀ですが、おへその周囲、肺、胸膜などの骨盤
腔から離れたところにも発生する可能性があります。

 子宮内膜症治療の目的は、疼痛の除去、妊孕性の向上、腫瘍の摘出です、治療法には、手術
療法、特殊療法があり、その中で各種手術療法、ホルモン療法(ダナゾール局所療法を含む)は
疼痛に対して効果があります。

ホルモン療法の特徴と問題点

 子宮内膜症に対するホルモン療法として、内服薬のダナゾール療法と点鼻薬や注射薬のGnRH
アゴニスト療法による治療が汎用されています。また、ゲスターゲン+エストロゲン(E)療法や
ゲスターゲン療法は、妊娠によく似た症状を維持することで子宮内膜症を改善する古くからある
治療法です。そして、1999年9月に発売された低用量ピルは予防効果も治療効果もありますが、
日本ではまだ多く使われていません。その理由としては、子宮内膜症に対して保険診療が適用
されていないため自費診療となるということがあります。また、低用量ピルは子宮筋腫には禁忌と
されており、子宮内膜症は子宮筋腫とよく合併することから、使いづらいということが考えられます。
さらに他のホルモン療法としてGnRHアンタゴニスト療法が現在、治験中で、今後使用できる可能性
があります。

 ダナゾール療法には、アンドロゲン作用による副作用という問題点があります。特に体重増加は
よくみられ、服用中に5ー6kgくらい増えることがあります。そして、座瘡、嗄声、多毛などを引き起こ
すことがあります。また、血液データで15〜20%ぐらいの人に肝機能の異常がみられ、不正出血
もときどき認められます。脳の血栓症の報告が今までに4例ありますが、ダナゾールとの因果関係
は不明で、私はあまり関係がないと思っています。

 一方、GnRHアゴニスト製剤の作用機序は、下垂体のluteinizing hormone(LH) や
follicle stimulatinghormone(FSH)の分泌を低下させ、その結果、卵巣から分泌される
を低下させて、低E状態を作り子宮内膜症病変を退行萎縮させます。したがって、
問題点としては低E作用によるのぼせ、hot flush、発汗、自律神経失調症、膣の乾燥感、
骨量減少など更年期障害のような副作用があります。今後、特に高齢者に対して骨量減少
により骨折などが起こらないように注意することが必要で、現在はGnRHアゴニスト療法
にホルモンを追加するadd-back治療などが試みられています。

 低用量ダナゾールの治療効果と副作用の検討

 ダナゾールとGnRHアゴニスト製剤の2つの治療の共通点は、E産出を抑制することです。しかし、
それぞれの副作用から試用期間は通常6ヵ月と考えられており、6ヵ月経つと治療はいったん中止
しなくてはなりません。治療は中止すると近い将来に再発、再燃が起きることが多いので、再び疼痛
が出現するのではないかと患者さんが大変怖がられます。そのため、われわれは副作用が極めて
少なくて、長期間施行できる薬物療法はないかと考えました。そして、子宮内膜症の長期治療を
望む患者さんに対し、低用量のダナゾールの治療効果と副作用、特に骨量に対する影響について
検討することにしました。

 ダナゾールの投与方法は、まず通常量である400mg/日を4週間投与し、次に200mg/日を4週間、
以後100mg/日としました。なお、子宮摘出術やGnRHアゴニスト療法後の症例は、初回から
100mg/日で継続投与しました。そして治療を開始して1年以上経った任意の時期に子宮内膜症
の自覚症状、月経状況や不正出血の有無、ホルモン値、DXA法による第2-4腰椎平均骨密度、
副作用について検討しました。

 対象は1995年1月〜1999年12月までに本治療を1年以上行った15例で、開始年齢は28〜46歳
でした。疾患は子宮腺筋症とチョコレート嚢胞がそれぞれ7例で、そのうち3例は両者の合併でした。
そして、子宮摘出後の内膜症の遺残が3例、月経随伴性気胸が1例でした。

 高い骨密度が維持される低用量ダナゾール療法

 本治療の月経に与える影響は、子宮摘出後を除く12例を対象とすると、3ヶ月以内はしばしば
不正出血が認められました。その後は25〜40日周期の月経となり、経血量は大変少なく、痛み
もほとんどなくなりました。2例は稀発月経、そのうち1例は無月経になりましたが、その2例は
治療開始年齢がかなり高齢でした。治療中のホルモン値については、Eは排卵よりも少し前
の卵胞期後期といわれるくらいのレベルを維持しています。男性ホルモンは正常範囲ですが、
遊離型の男性ホルモン(free-T)が高値を示しています。また平均18mmぐらいの大きな卵胞が
卵巣の中に認められています。

 ヘマトクリット値が45%以上、血小板が40万以上で血栓症のリスクが高くなるといわれて
いますが、そのような上昇は認められませんでした。HDLコレステロールも正常範囲内で、
また肝機能の異常も全くありませんでした。

 骨密度については、横軸に治療期間、縦軸に骨密度をとり、同年齢の正常女性を100%
とした相対値で表すと、非常に高い人、やや低い人がいますが、骨密度の全体の平均値は
101.3%で、同年齢の健康な女性の値と同じレベルか、それよりも上を維持しています。

 結論として、低用量ダナゾール療法は骨量に対して、ある程度Eのレベルを維持する
作用があります。そして、男性ホルモンは骨に対してよい作用をもっていますが、低用量
ダナゾールによりfree-Tは多少高くなります。さらに、ダナゾールそのものの蛋白質同化
作用により、周りの筋肉なども増強され、大変よい支持環境を得られることから、骨に対して
よい効果が出ていると考えられます。

 有効で安全性が高い低用量ダナゾール長期投与

 低用量ダナゾール療法により全症例で、月経困難症などの症状の軽減が認められ、少なく
とも子宮内膜症病変の増悪はありませんでした。月経はおおよそ月1回となり、非常に少量で
、痛みもないことから、女性の社会生活が送りやすくなると考えられます。また、3〜4kgの体重
増加が2例、1kg以内の増加を3例に認めましたが、座瘡や声の低音化など、男性化徴候につい
てはほとんど問題ありませんでした。さらに、肝機能障害なども全く認められませんでした。卵胞
発育は認められ、Eは比較的高値でした。そして、骨密度は年齢相当に維持されました。

 低用量ダナゾール療法のメリットとしては、子宮内膜症に対する疼痛の軽減や解放が非常
に大きいと思います。そして、400mg/日の通常のダナゾール投与を4/1量にすると、規則的な
少量出血(月経様出血)になります。また、GnRHアゴニスト療法と比較して、骨量の低下など
もありません。ただし、卵胞発育がみられることから排卵の可能性があり、避妊の必要性が出て
くると思います。

 したがって、低用量ダナゾールによる長期治療は、挙児を希望しない患者にとって、有効で
安全性が高い治療と考えられます。骨量に対してもGnRHアゴニスト療法と異なり、E
free-Tが高値である機序を介して、高い骨密度が維持されると考えられました。

( 第41回 日本母性衛生学会総会ランチョンセミナー 
  「子宮内膜症と疼痛」
   Pharma Medica Vol.19 No.1 2001より
          抜粋掲載しました
。 )