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  鉄欠乏性貧血

貧血

 貧血は、血液の濃度がうすいことを意味している。血液は、からだの重要な構成要素
の一つであり、血液細胞血漿から成り立っている。血液は、物質の運搬生体防御
血液凝固体温調整などのはたらきをしており、血液の異常は、種々の病気を引き起こす。

 血液の構成

 血液は、血管という細い管のなかを通って全身を循環している赤い色をした液体である。
血液を全身に循環させるのは心臓のポンプ作用による。
 血液の量は、体重の約12分の1で、体重60キロの人では、約5リットルである。

 血液は、赤血球白血球血小板などの血液細胞(血球)と黄色の血液である血漿から
成り立っている。血液のうち、血液細胞すなわち細胞成分が、男性では40%〜50%、
女性では、35%〜45%を占め、血漿である成分が、男性では50〜60%、女性では
55〜65%を占めている。血液に占める赤血球の容積の割合をヘマトクリットと呼んでいる。

 血液細胞の種類

 血液細胞には、赤血球、白血球、血小板が含まれている。

 赤血球は、直径約8μm、厚さ約2μmの円盤状の細胞で、中央が少しくぼんでいる。
赤血球は、酸素を運搬する役目を担っている。赤血球の寿命は、約120日である。

 白血球には、顆粒球、単球、リンパ球が含まれている。
顆粒球は、細胞質内に顆粒を多くもっており、顆粒の染色性によって、好中球、好酸球
好塩基球に分けられる。好中球と単球は、異物を処理する(貪食する)はたらきをもっている。
 リンパ球は、免疫を担当している。

 血小板は、骨髄の巨核球の細胞質の一部がちぎれてできるものであり、血液の凝固
関与している。

 血漿

 血漿は、血液から細胞成分を除いた部分で、淡黄色をした液体である。血漿のなかには、
タンパク質、糖、脂質、電解質などが溶けている。血漿に溶けているタンパク質には、
アルブミン、グロブリン、フィブリノゲンなどがある。アルブミンは、血漿タンパクの3分の2を
占めている。アルブミンは、浸透圧を維持し、種々の物質を結合して運搬したり、栄養素の
予備としてはたらいている。グロブリンには、リンパ球によってつくられる抗体(免疫グロブリン)
が含まれている。フィブリノゲンは、トロンビンという酵素の作用でくっつき合って鎖状のフィブリ
ンをつくる。傷口をふさぐ凝血塊(かさぶた)は、フィブリンの網目に血液細胞が付着して固まった
ものである。

 血液のはたらき

 酸素の運搬

 酸素は、赤血球によって体のすみずみまで運ばれる。赤血球のなかには、ヘモグロビン
(血色素)という鉄を含有するタンパク質が含まれていて、肺で酸素と結合し、全身の組織に酸素
を送り届ける。ヘモグロビンは、赤い色をしている。血液が赤い色をしているのは、赤血球中の
ヘモグロビンが赤い色をしているからである。

 生体防御

 白血球によって、病原体などから身体を防御することが行われている。白血球のうちの
好中球と単球は、病原体などの異物を貪食する。リンパ球は、異物に対する免疫反応を
おこし、抗体を産生する。抗体は、γグロブリンとして血漿中に存在する。

 血液凝固

 血管壁が傷つくと、血小板がそこに集まり、お互いにくっついて破れた血管を一時的に
塞ぐ。それが引き金となって血液の凝固が始まる。血液凝固因子の存在下に、トロンビン
の働きによってフィブリノゲンが糸状のフイブリンに変化して血液の凝固が始まる。
 血液には、凝固を溶かして除去するしくみがあり、線繊素溶解(線溶)とよばれる。

 物質の運搬

 栄養素や老廃物は、血漿に溶けて運ばれる。

    赤血球に関連する検査の基準値 

単位
赤血球数 ×104/μl  450〜610 380〜530
ヘモグロビン g/dl 13.0〜18.0 11.5〜16.5
ヘマトクリット 40〜54 35〜47
MVC fl 80〜100
網赤血球 0.2〜2.0


 MVCは、平均赤血球容積。平均赤血球容積は、赤血球の大きさを示す指標。
 網赤血球は、骨髄で作られた血液中に出たばかりの若い赤血球を意味する。

     貧血の症状

 1.酸素供給不足によるもの

    易疲労感、めまい、頭痛、狭心痛、息切れなど

 2.赤血球量の減少によるもの

    顔面蒼白(黄色人種ではしばしば黄色っぽく見える)、
    起立性低血圧、浮腫など

 3.心拍出量の増加によるもの

    動悸、機能性心雑音、微熱など

 鉄欠乏性貧血

 鉄欠乏状態の進展

  体内に鉄欠乏が起きると、Hb(ヘモグロビン)やRBC(赤血球)が減少する前に、
体の中の貯蔵鉄が減少し、次いで血清鉄の減少が始まる。この状態を潜在性鉄欠乏
状態または前貧血状態と呼ぶ。更に鉄欠乏が進むとHbの合成が障害されて貧血が
始まってくる。

 鉄欠乏状態が長い間続くと皮膚・粘膜の萎縮を起こし、

 1.舌粘膜の萎縮による味覚の異常、舌炎、口内炎
 2.食道粘膜の萎縮による嚥下困難
 3.胃粘膜の萎縮のため、食欲不振、胃部不快感などの不定愁訴を訴え、
   胃内内視鏡検査で粘膜の血管透影像がはっきりみられる。
 4.皮膚の萎縮のために爪がもろく縁が欠けやすく、また扁平爪(flatting nail)
   や更に匙状爪(spoon nail)となる。

 鉄欠乏性貧血の初期は、特に症状はないことが多い。ヘモグロビンが、7〜8g
切ると、動悸、立ちくらみ、労作業による息切れ、顔面、皮膚の色白など貧血の症状
がみられる。また稀なものとして異食症(粘土、チョーク、茶葉、氷塊などを食べる行為)
、小児では行動異常がみられたりする。

 鉄欠乏性貧血の頻度

 鉄欠乏性貧血は、もっとも頻度が高く、また治る貧血の代表である。女性に限れば
世界の人口の30%が貧血であり、その殆どが鉄欠乏性貧血であるといわれている。

特に、発展途上国では、その頻度が高い。欧米では、女性の約8%とされ、日本女性
の頻度も同じくらいである。更に、貧血を伴わない鉄欠乏状態が極めて多く、貯蔵鉄
欠乏33.4%、潜在性鉄欠乏8.0%で、正常とされたものは、43.6%にすぎなかった。

 鉄欠乏性貧血の治療方法

 いった鉄欠乏性貧血をきたした場合は、鉄の補給は食事のみでは不可能で、鉄剤の
投与が不可欠となる。治療はまず、経口鉄剤の内服から開始する。副作用として、胃腸
症状(胸焼け、便秘、下痢)がよくみられる。これは、服用時間、剤型、鉄量に影響される
ので、これらを変更すると服用できることがある。ヘモグロビンは、6〜8週で正常化する
貧血が改善しても貯蔵鉄を満たすまで治療を続ける。これには、一般的に4〜6ヶ月を要する

 経口鉄剤に耐えられない副作用がある時、経口鉄剤では間に合わない鉄の損失がある
時、消化器の病気で内服が不適当な時は、静注療法を行うことがある。体の量は、3g
から5gであり、これを超えて投与されると鉄過剰症をきたすので投与鉄量を計算し、
過剰に投与しないことが大切とされている。

  鉄を多く含む食品

 ヘム鉄(吸収率15%〜25%)
 
   牛肉、豚肉、鶏肉、レバー、魚

 非ヘム鉄(吸収率2%〜5%)

   ほうれんそう、貝類、卵、穀物、チーズ

 鉄の吸収をよくするもの

   ビタミンC (アスコルビン酸)→→ 野菜、芋類、果物

    鉄の吸収利用に対してビタミンCは、促進的作用を示す
   つまり、生鮮野菜・果物の摂取が鉄の有効利用を促す。ビタミンCの効果は、
   その還元作用によって不溶性の3価鉄を可溶性の2価鉄に還元して吸収を
   高める。実際の食品中では、2価鉄よりも3価鉄の方が化学的に安定である
   ので、食品中の鉄の殆どは、3価鉄である。

   クエン酸

   果実類特に柑橘類に豊富に含まれる代表的有機酸である。クエン酸には、鉄
  だけではなく、カルシウム、マグネシウム、亜鉛など一般のミネラルと錯体を作り、
  これらの溶解性を高める働きがある。


   動物性タンパク質→→ 肉、魚、卵など

    肉や魚類の動物性タンパク質がヘム鉄の有効利用性を高める。動物性食品の
  摂取レベルがある程度高いことが鉄の栄養状態をよくする。
   しかし、動物性タンパク質でも、鶏卵・乳・チーズのタンパク質には、鉄利用促進
  作用は認められていない。また、大豆タンパク質のような植物性タンパクにも、
  このような作用は認められていない。

(日本評論社  定価1250円 本体1190円 
   からだの科学 2002 JANUARY 222 特別企画 貧血 浦部晶夫 編
  ISBNコード 雑誌02395-1/1 T1102395011254  より編集・抜粋をしまし
た。)

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