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  非ステロイド系消炎鎮痛剤

 痛みを伝える神経のしくみ

 皮膚には、神経節(脊髄後根神経節)の細胞から出た神経線維(脊髄神経)が木の根の
ように全身に張り巡られています。痛みの刺激を伝える神経線維は三種類あり、それぞれの
役割を負担しています。

1.Aδ(エー・デルタ)繊維 → 皮膚を切られた瞬間の激しい刺激(急性痛
C繊維 → その後の持続的な刺激(亜急性痛)は、C繊維を介して脊髄へ伝えられます。
3.Aβ(エー・ベータ)繊維 → 傷が治った後の慢性の痛みシビレの発現に関与している。

 内臓の痛み

 内臓の痛みには、「自律神経」が関係しています。心臓、血管、胃、腸などの働きは、意識して
して変えることはできません。このような臓器の活動を調節するのは自律神経で、その中には
「交感神経」と「副交感神経」があり、血管や内臓の障害による痛み刺激は、主に交感神経
介して脳へ伝えられます。

 消炎鎮痛剤アスピリンの開発

 医学の父と呼ばれるヒポクラテスは、古代ギリシャ時代、セイヨウシロヤナギ(Salix alba)
樹皮を痛みと発熱の治療に使っています。18世紀には、ヤナギの樹皮を細かく砕き、水に
溶かして飲ませると熱が下がると、ロンドン王立協会から出版された書物に記載されています。
 19世紀に入ると、ヨーロッパの研究者はヤナギの樹皮の有効成分を抽出し、その主成分が
サリチル酸であることを突き止めています。

 19世紀後半には、サリチル酸は慢性関節リュウマチ、風邪、歯の痛みから、ジフテリア、
梅毒、コレラに至るまで、あらゆる病気に使われていました。しかし、この薬で胃をやられ、
腹痛や吐き気に苦しんでいる人がたくさんいたのです。

 そこで、ドイツの製薬メーカー、バイエル社は、慢性関節リュウマチに悩む父親をもつ、
29歳の化学者、フェリックス・ホフマンに副作用の少ない鎮痛剤の開発を指示しました。
ホフマンは、フランスの化学者がサリチル酸をアセチル化する方法を報告した論文を見つ
け、それを改良して純度の高い「アセチルサリチル酸」の合成に成功しました。
 1899年、バイエル社アセチルサリチル酸「アスピリン」と名付けて発売しました。

 アスピリンの作用機序解明とノーベル医学生理学賞

 アスピリンは100年以上前に発売された薬ですが、その作用機序がわかったのは、
70年以上たった1971年のことです。英国のベイン博士は新しいタイプのプロスタグランジン
(PG)を発見する過程で、アスピリンによってPGを合成する酵素「シクロオキシゲナーゼ
(COX)」の活性が抑制されることを見出しました。COXの活性が低下すると、PGが減少し、
痛みを誘発する物質(ブラジギニン)の活性も抑えられます。この一連の変化でアスピリンの
鎮痛作用が発現するわけです。ペイン博士は、これらの発見によって、スウェーデンの研究者
とともに、1982年、ノーぺル医学生理学賞を受賞しました。

 なお、アスピリンはCOX活性を阻害して炎症(腫れ、発赤などの症状)と痛みを抑えること
が明らかになったことから、類似の作用を持つけれども作用機序が異なるステロイドホルモン
と区別するうえで、COXに作用する薬は、「非ステロイド系消炎鎮痛剤(non-steroidal
 anti-inflammatory drugs: NSAIDs)」と呼ばれるようになりました。

 プロスタグランジン系の合成経路と生理作用

●生理的刺激→アラキドン酸遊離リポキシゲナーゼロイコトリエン 気管支収縮
                                               喘息誘発
                                              胃液分泌抑制
                      →COX−1TXA 血小板凝集、血管収縮
                              →PGI 血小板凝集抑制、血管拡張、胃粘膜保護                                        →PGE 血管拡張、胃粘膜保護、腎機能保護

●外傷・炎症→アラキドン酸遊離COX−2PGEブラジキニン 痛み増強
                                 ↓
                             腫れ増強、痛み増強
     

 消炎鎮痛剤の副作用防止

 消炎鎮痛剤には消化管潰瘍を起こしやすい欠点があります。そのおもな理由は、血管拡張
と粘膜の保護に働くPG(PGE、PGI)が減少してしまうためです。また、PG合成酵素の
COX活性が抑制されると、代わりにリポキシゲナーゼの活性が亢進してロイコトリエンが増え、
胃液の分泌が減少します。同時に、消化管粘膜を破壊する「活性酸素」が増え、潰瘍が起こ
ってきます。

 アスピリンやイブプロフェンを三ヶ月以上服用すると、半数の人に胃の粘膜障害が起こり、
15%の人に胃潰瘍が見つかると報告されています。このような副作用を少しでも減らす
目的で、消化管で吸収されてから活性型に変換され作用を発揮するタイプ(プロドラッグ)
が1985年以降に発売され、現在もっともよく使われる消炎鎮痛剤(ロキソプロフェンなど)
となっています。しかし、体への作用機序は従来の製剤と同じなので、胃腸障害が極端に
減ったわけではありません。

 痛みを抑えるために使った薬が消化器障害による痛みを引き起こすというジレンマは、
消炎鎮痛剤の開発における長年の研究課題でした。この難題に光を照らしたのが新しい
COXの発見です。

 1991年に発見された新しいCOXは外傷や炎症が起こると急激に増えるタイプで、
COX−2と名付けられ、体の中にもともとあり、胃粘膜の保護に働くタイプはCOX−1
と分類されました。この痛みを強めるCOX−2の活性だけを阻害することができれば、
副作用の少ない新しい消炎鎮痛剤になるわけです。

  1994年に発売されたエトドラクはCOX−2への作用が10倍強く、比較的消化器
障害の少ない消炎鎮痛剤として使用されています。さらに、COX−2が発見されてから
5年後の1996年に南アフリカ、フランス、英国など多数の国々で発売されたメロキシカム
が2001年に日本でも発売され、長期に消炎鎮痛剤を服用しなければならない患者さん
に大きな朗報をもたらしました。

 消炎鎮痛剤の副作用には、胃腸障害以外に、腎障害、肝障害、皮膚の発疹などが
あり、命にかかわる副作用として喘息発作の誘発があります。喘息の発作は、気管支
が収縮することで誘発されます。消炎鎮痛剤によってCOX−1の作用が抑えられると、
代わりにリポキシゲナーゼの活性が上昇し、気管支を収縮させるロイコトリエンが増えて
しまうのです。この消炎鎮痛剤によって引き起こされる喘息は、「アスピリン喘息」と呼ば
れますが、アスピリンだけが悪いわけではなく、従来使われていた消炎鎮痛剤すべてに
その危険ががあります。ところが、COX−2のみを阻害する場合には、ロイコトリエンは
増加しないので、喘息誘発の危険が少ないといわれています。この点からも、COX−2
阻害作用の強い消炎鎮痛剤に期待が集まっています。

( 以上までは、 中央公論新社刊 中公新書1632
     後藤文夫著 『痛み治療』
        ISDN4−12−101632−7 
      定価 本体760円+税 より抜粋しました。)

  表1 血中濃度半減期によるNSAIDs分類

(川合眞一:NSAIDsの分類と薬理学的特性、医学のあゆみ 
    
187:921ー925 1998より引用、一部改変)

半減期 一般名 商品名 血中濃度
半減期(時間)
用法 通常使用量
(mg/1日)
長い テノキシカム チルコチル 57 分1 20
オキサプロジン アルボ 50 分1〜2 400
ピロキシカム フェルデン、バキソ 36 分1 20〜30
中等度 メロキシカム モービック 27.6 分1 10〜15
ナブメトン レリフェン 21 分1 800
スリンダク クリノリル 18 分2 300
フェンブフェン ナパノール 17 分3 600
ナプロキセン ナイキサン 14 分2〜3 300〜600
短い インドメタシン インダシン 分3 25〜75
イブプロフェン ブルフェン 600
チアプロフェン酸 スルガム 600
プラノプロフェン ニフラン 1.5 225
ロキソプロフェンNa ロキソニン 1.3 180〜360
ジクロフェナクNa ボルタレン 1.3 75〜100
アルミノプロフェン ミナルフェン 600


   表2 DDS(drug delivery system)による分類

  (水島裕(編):今日の治療薬(2002年度版).南江堂.2002より引用)

DDS 薬剤名 目的・特徴 問題点
腸溶剤 ミニマックス 胃腸障害減少 効果やや弱い
徐方剤 インテバンSP、ボルタレンSR 効果持続 効果やや弱い
座薬 ボルタレン座薬 胃腸障害減少 局所副作用
フェルデン座薬 胃腸障害減少 やや煩雑
注射剤 メナミン 速効性、作用強力 やや煩雑
プロドラッグ クリノリル、ロキソニン 胃腸障害減少 特にない
レリフェン、フルカム
インフリー、ミリダシン
ターゲット療法 ロピオン 作用増強
経皮吸収剤 ナパルゲン軟膏 副作用減少 効果弱い
皮膚外用剤 アンダーム 局所効果、全身性副作用減少 効果弱い


   表3 COX選択性による分類

 (Kawai,S:Cyclooxygenase selectivity and the risk of gastro-intestinal complications
   various non-steroidal anti-inflammatory drugs:A clinical consideration.Inflamm Res47
    (Suppl.2):S102-S106,1998 より引用、一部改変)

COX選択性 薬物名 平均IC50
(μM)
COXー1
(ヒト血小板)
平均IC50(μM)
COX−2(IL-1b
刺激ヒト滑膜細胞)
COX−2
/COX−1
重症胃腸障害
発生頻度
(/患者数
年)
COX−2阻害が
比較的強い
メロキシカム
エトドラク
ジクロフェナク
4.7
122
0.037
0.01
0.68
0.00097
0.002
0.006
0.03

0.0
0.93
中間 ザルトプロフェン
ロキソプロフェン活性体
ナブメントン活性体
イブプロフェン
1.3
0.38
13
3.0
0.34
0.12
8.2
3.5
0.26
0.15
0.63
1.2



0.94
COX−1阻害が
比較的強い
インドメタシン
アスピリン
オキサプロジン
0.013
3.2
2.2
0.044
26
36
3.4
8.1
16.4
2.96

3.72

COX-2選択性にプロックすることが抗炎症作用が強いとされる。
IC50は薬剤がCOX活性を50%抑制する濃度で、COX-2/COX-1の比が小さいほど、
COX-2選択性が高い。

  (以上、表1から表3は、日本評論社刊 からだの科学
   2002 SEPTEMBER 特別企画 痛みをとる
     塩谷正弘編 定価1250円 本体1190円 
       雑誌T1102395091256 より抜粋しました。)


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