臨床経験 子宮腺筋症合併不妊の妊娠例
本橋恵美子 川内 博人 西島 正博
(北里大学医学部産婦人科 〒228−0829 相模原市北里1−15−1)
子宮腺筋症合併不妊例の妊孕性温存治療、子宮腺筋症合併妊娠例の予後などに関する
見当の報告は少なく、明確な指針が示されていないのが現状である。今回当科で経験した
、子宮腺筋症合併不妊の妊娠例4例について報告する。4例中2例は妊娠経過に異常なく、
正期産となったが、頸管無力症、中期流産を各々1例ずつ認め、妊娠予後は必ずしも良好で
はなかった。
子宮腺筋症合併不妊例に対する不妊治療、妊娠例の予後等について、文献的検討を
加えて、報告する。
はじめに
子宮腺筋症の発症年齢は、30歳代後半から40歳がピークといわれており、近年の結婚年齢
の高齢化にともない不妊検査、治療に際して発見されることも少なくない。妊娠に合併した子宮
せんきんしょうを認めることもまれではなく、大部分は妊娠予後に影響しないと推定されるが、重
度な子宮腺筋症では、その妊娠予後はかならずしも良好な結果が得られない例も散見される。
今回われわれは、子宮腺筋症合併不妊例の妊娠例4例を経験したので報告する。
T.症 例
<症例1>
27歳、0経妊0経産で、1993(平成5)年8月に月経困難を主訴に受診。初診時内診所見
では、子宮体部は鵞卵大で超音波上、後壁に境界不明瞭な低エコー領域と5×4cm大の
右卵巣チョコレート嚢胞を認めた。月経困難症は、鎮痛剤で対症療法とし、不妊一般検査後、
1994(平成6)年11月、腹腔鏡下卵巣チョコレート嚢胞エタノール固定術を施行した。
手術所見では、後壁を主体としたび慢性の腫大を認め、子宮腺筋症と考えられた。術後、酢酸
ブセレリン900μg/日を6ヶ月間投与後、子宮は超鶏卵大に縮小した。排卵の回復を待って、
タイミング指導3周期行うも妊娠成立せず、対外受精・胚移植(IVH−ET)を選択した。1996
(平成8)年11月、3ヶ月のGnRHa-ultralong法のIVH−ET2回目で妊娠が成立した。妊娠経過
中は、異常なく39週5日に選択的誘発分娩となった。
<症例2>
38歳、1経妊0経産で、2000(平成12)年4月に、3年間の続発不妊を主訴に受診した。
月経困難症は中等度、過多月経は軽度で貧血は認めなかった。内診所見では、子宮体部
は、鵞卵大、MRI検査では、T2強調画像で内膜と連続するlow intensityなび慢性の腫大を
認め、子宮腺筋症と診断した。酢酸ブセレリン900μg/日を6ヵ月投与後、同年12月に腹
腔鏡を施行した。子宮は鶏卵大に縮小していたが、右卵管に高度の狭窄が認められていた
ため、年齢を考慮し、術後IVF−ETを選択した。2001(平成13)年3月にGnRHa-ultralong
法のIVF−ET2回目で妊娠が成立した。妊娠15週0日に子宮口の開大、頸管長の短縮を
認め、頸管無力症の診断でただちに頸管縫縮術を施行した。その後の経過は順調だった
が、36週0日陣痛発来し、早産にいたった。児は、3.130gの女児で出生後の経過は正常だ
った。
<症例3>
32歳、0経妊0経産で、1998(平成10)年3月に、1年間の不妊と重度の月経困難症を
主訴に受診。内診所見では、子宮は超手拳大で、HSG検査では、子宮内腔の拡張、MRI
検査では、T2強調画像で子宮筋層のび慢性の肥厚およびlow intensityな部分にhigh intensity
の散在を認め、子宮腺筋症と診断した。フーナーテスト不良のため、AHIを3回行ったが、妊娠
成立せず、月経困難の増強のため、1999(平成11)年3月より、酢酸リュープロレリン(1.88mg)
を6ヵ月間投与後、同年11月に腹腔鏡を施行した。手術所見では、子宮は小鵞卵大に縮小、
左卵管采癒着を認め、腹腔鏡下卵管采形成術を行った。術後の初回クロミフェン−AIHで妊娠
が成立した。子宮は、妊娠8週で成人頭大となったが、以後の妊娠経過はとくに問題なく、39
週4日経膣分娩にいたった。
<症例4>
32歳、0経妊0経産で、2001(平成13)年5月に、重度の月経困難と10年間の不妊を
主訴に受診。内診所見では、子宮は超手拳大、MRIのT2強調画像で、後壁にhigh intensity
の点在をみる境界不明なlow intensity部分とともに、前壁に2個の子宮筋腫を認めた。同年
8月より酢酸ブセレリン(1.8mg)の皮下投与を開始したが、基礎体温は、2相性を持続し、
5カ月目に高温相が持続したため、GnRHaを中止、妊娠の成立が確認された。妊娠6週目
での子宮の大きさは、双手拳大だった。妊娠10週目で1絨毛膜1羊膜双胎と診断し、12週
6日で切迫流産で管理入院なるも14週2日で破水し流産となった。
症例のまとめを表1に示す。初診時年齢は、症例1は、20歳代後半であったが、他の症例
は、30歳代と子宮腺筋症の好発年齢であった。初診時の子宮の大きさは、鵞卵大から超手
拳大までで、月経随伴症状は、月経痛と過多月経が主な症状であったが、臨床症状の程度
は、子宮の大きさにほぼ比例していた。いずれの症例もGnRHa療法を不妊治療前に行い、
症例4を除いては、子宮収縮がみられた。妊娠方法は、症例1および2は、GnRHa-ultralong
法のIVF-ET、症例3はクロミフェン−AIH、症例4は自然妊娠であった。転帰は、症例1および
3は、妊娠経過に異常はなかったが、症例2は、切迫流産、頸管無力症を認め、症例4は流産
に終わった。
表1 各症例のまとめ
年齢(歳) 子宮size 妊娠方法 転帰 症例1 27 鵞卵大 IVF−ET
GnRHa−
ultralong39週NSD 症例2 38 鵞卵大 IVF−ET
GnRHa−
ultralong36週早産
頸管無力症症例3 32 超手拳大 C.C−AIH 39週NSD 症例4 32 超手拳大 自 然 14週流産
U.考 察
子宮腺筋症は、子宮筋層内に子宮内膜組織を認める病態で、異所性子宮内膜の増殖という点
では、外性子宮内膜症と類似するが、それぞれの病因がまったく異なるため現在では内性子宮
内膜症とは呼称していない。子宮内膜症が比較的若年層に発症し、その約40%に不妊症を合併
することが一般に知られているが、子宮腺筋症はより年齢層の高い女性において頻度が高く、経
妊経産回数の多い女性に好発することが報告されている。
しかし、近年の診断技術の進歩や初妊年齢の高齢化にともない、不妊治療中や妊娠診察時に
子宮腺筋症が合併していることもときにみられるようになった。当科で経験した4例の初診時年齢
は、27歳から38歳で、1例を除いては未妊婦であり、比較的若年層の発症であった。本症の診断
は、子宮筋腫との鑑別が重要で、摘出子宮にみられる頻度としては、20%前後であるとされており、
自然発生頻度は不明である。また、本症は、エストロゲン依存性に発育する病態とされており、子宮
筋腫、子宮内膜症との合併頻度は、多くの報告によれば、それぞれ50%、20%前後と高率である。
当科で経験した4例は、いずれも1年以上の不妊期間があり、GNRHaによる偽閉経療法を
行った後、1例の自然妊娠以外は、配偶者間人工授精およびARTによる妊娠であった。自然
妊娠例は、4例のうちもっとも子宮のサイズも大きく、不妊期間も10年と長期間にもかかわらず
妊娠にいたったこと、また子宮腺筋症は全妊娠の17%に合併しているとの報告もあることなど
から、子宮腺筋症自体は、それほど妊孕性に影響しているとは考えにくいものの、Vercelliniら
は、不妊症例72例の腹腔鏡下生検を行った結果13例(18.1%)に本症を認めたと報告して
おり、また杉並らの子宮腺筋症核出手術施行例の検討において、不妊症例37例中、術後17
例(45.9%)に妊娠が成立し、子宮腺筋症と妊孕性に何らかの関連があるのではないかと
報告している。子宮腺筋症の妊孕性に与える影響に関する報告は少なく、言後の疫学的およ
び基礎的研究の発展が期待される。
子宮腺筋症の治療法については、妊孕性を温存しない場合は、その症状の重症度により、
子宮全摘が選択されることが多いが、妊孕性を温存しなければならない場合には、その方法
は限られてくる。本症に合併する不妊女性に対する薬物療法としては、GnRHaによる偽閉経
療法後に自然妊娠にいたった例では、Linら、Paulら、Janieらの報告があり、また竹田らは、
GnRHa療法後にhMG−hCG療法を施行し妊娠にいたった例を報告している。
ダナゾール療法の子宮収縮における効果は、GnRHa療法とほとんど変わらず、五十嵐ら
のダナゾール局所療法では、副作用も認めず、子宮筋層の厚さが35mm以下の不妊患者
の50%に妊娠の成立を認めている。子宮腺筋症に対するGnRHa療法、ダナゾール療法
はいずれもその症状の軽減や子宮の縮小に有効であるが、治療後比較的早期に再発する
ため、早期の妊娠成立が望ましいと考えられる。
子宮腺筋症合併妊娠の妊娠予後に関しては、大部分は有害事象はおこらないものと
推定されているが、報告例は少ないものの、かならずしも妊娠予後が良好とはいえない
例も散見される。石川らの報告では、4例中全例流産または早産に至っており、Shimizu
らは、IVF−ET療法を受けている不妊女性での予後を比較したところ、22.9%の早産率
であったとしている。Linらの報告でも、4例中3例は、早産であった。Azzizらの過去の例
をみても本症合併妊娠で見られる有害事象は切迫流産や頸管無力症が多く、IUGR、前期
破水、産褥期弛緩出血、癒着胎盤などもみられる。
当科の4例でも、1例が頸管無力症・早産、1例が14週で流産であった。流産例は、妊娠
6週で双手拳大の子宮の大きさで子宮筋腫も合併しており、感染徴候も認められなかった
ことから、子宮腺筋症が子宮筋層らび慢性に存在しているために、子宮の内圧の亢進が
おこり、慢性の子宮収縮を起こした可能性も考えられる。
子宮腺筋症を合併する不妊女性に対する妊孕性温存治療としては、先にあげた杉並ら
、Fedeleらの子宮腺筋症核出術があげられる。杉並らによれば、子宮腺筋症核出術は
手技的に容易なものではないが、その切除範囲をMRIなどで明確に設定すれば、切除は
困難ではないとしており、術後の症状改善はもとより妊孕性が向上し、また妊娠経過中に
危惧される子宮破裂は、17例中1例で、15例は正期産であったと報告している。Fedeleら
も、13例中9例(72.2%)で正期産にいたったとしており、妊娠中の子宮術創による子宮
破裂の合併に慎重に対処していけば、妊孕性が温存され、また妊娠経過も比較的問題が
ないものと考えられる。
おわりに
子宮腺筋症合併不妊例の妊孕性や、妊孕性温存治療の検討、子宮腺筋症合併妊娠
の予後の検討については報告が少なく、いまだ明確な結論は得られていない。今後は、
子宮腺筋症の重症度により妊娠予後につしいての十分なインフォームド・コンセントを
得た上で、治療法の選択を考慮する必要があると考えられた。
(金原出版株式会社 『産婦人科の実際』Vol.53 No.7
July,2004. 雑誌 04025−7
定価2,625円(本体2,500円+税5%)
1097ページ〜1101ページより抜粋しました。 )