子宮腺筋症の腫瘍性性格
小畑 孝四郎氏 椎名 昌美氏
(近畿大学医学部産科婦人科学教室
〒589-8511 大阪狭山市大野町377-2)
卵巣癌に合併する卵巣子宮内膜症の頻度や卵巣子宮内膜症から、卵巣癌への移行像
の頻度が卵巣類内膜腺癌や卵巣明細胞癌で高率であり、卵巣子宮内膜症は、これらの卵巣
癌の発生母地となりうる。また、卵巣子宮内膜症には、癌抑制遺伝子の異常が存在し、とくに
PTEN遺伝子の異常が卵巣類内膜腺癌の発生に深く関与している。さらに、子宮腺筋症では、
基底膜の破壊酵素であるカテプシンDやMMP−9の発現が子宮内膜癌と同等あるいはそれ以
上に認められ、基底膜の構成成分(ラミニン、コラーゲンタイプW)の断裂や欠損が子宮内膜癌と
同程度に認められることから、子宮腺筋症の腫瘍性性格が示された。
はじめに
子宮内膜症は、良性疾患であるにもかかわらず、増殖能も認められる進行性の疾患である。
さらに、卵巣子宮内膜症の癌化が指摘されるなど、子宮内膜症は腫瘍性性格を強くもった疾患
であるといえる。そこで、本稿では子宮内膜症、とくに卵巣子宮内膜症と子宮腺筋症の腫瘍性
性格について解説する。
子宮腺筋症における腫瘍性性格
1.カテプシンDおよびMMP−9
子宮腺筋症の発生機序については、古典的には胎児性Muller管、あるいはWolff管遺残
からの発生などがいわれてたが、最終的には、Cullen(1903年)が示した浸潤性子宮内膜
基底層増殖説が定説となり、さらに、今日では正所性子宮内膜が直接子宮筋層内へ侵入し
発育する子宮内膜直接侵入説がいわれている。
子宮内膜癌の浸潤に重要な破壊酵素としては、基底層の構成成分のラミニンの破壊酵素
であるカテプシンDとコラーゲンタイプWの破壊酵素である matrix metalloproteinase
9
(MMP-9)とが挙げられる。子宮腺筋症におけるカテプシンDとMMP−9についての検討では
子宮体癌と同様に腺上皮細胞質内にその存在が認められ、その発現陽性率(上皮細胞の
5%以上染色されるものを陽性として算出)は、カテプシンDでは、46.7%と高分化型腺癌
と中分化型腺癌の中間の値を示した。さらに、MMP−9の発現陽性率は、80%と低分化型
腺癌よりも高値を示し、強い浸潤性があることが示された。
カテプシンDおよびMMP−9の発現陽性率
| 組織型 | カテプシンD(%) | MMP−9(%) |
| 子宮腺筋症(N=30) | 46.7 | 80.0 |
| 子宮内膜癌 | ||
| 高分化型腺癌(N=38) | 41.5 | 20.0 |
| 中分化型腺癌(N=14) | 51.6 | 25.0 |
| 低分化型腺癌(N=6) | 83.3 | 40.0 |
(椎名昌美,他,産婦の進歩,2002)
2.ラミニンおよびコラーゲンタイプW
浸潤・転移能の強い癌組織では、基底膜構成成分であるラミニンおよびコラーゲンタイプW
の減少、消失が強く見られる。正常の正所性子宮内膜では断裂や欠損は認められず、厚さ
もほぼ一定であるが、子宮腺筋症における子宮内膜類似上皮細胞周辺の基底膜では、悪性
腫瘍と同様にラミニン、コラーゲンタイプWtypeW-collagenの断裂・欠損が認められた。また、
子宮内膜増殖症や子宮内膜癌では、ラミニンとコラーゲンタイプWの存在率に差を認めなかっ
たが、子宮腺筋症ではコラーゲンタイプWの存在率がラミニンに比べ高率であった。
また、ラミニンとその破壊酵素のカテプシンD、コラーゲンタイプWとその破壊酵素のMMP−9
の局在を連続切片を用いて検討を行ったところ、基底膜の構成成分の欠損部分とその破壊酵素
の発現部分とは一致しなかった。これは、基底膜の断裂や欠損が破壊により起こるのではなく、
その細胞の持つ基底膜の産出能が低下しており、その状態は子宮内膜癌と同様の機能的変化を
起こしているものと解釈できる。子宮腺筋症でラミニンが少ないのは、基底膜産出能低下という
腫瘍性性格を示し、コラーゲンタイプWが子宮内膜癌より多いのは、浸潤を阻止する間質側からの
反応が強いことを示していると考えられ、浸潤能があるものの癌のようにひろがらないという子宮
腺筋症の特徴を示していると考えられる。
各疾患におけるラミニンおよびコラーゲンタイプWの存在率
| 組織型 | ラミニン(%) | コラーゲンタイプW(%) |
| 正常子宮内膜 (N=5) | 99.7±0.5 | 99.8±0.8 |
| 複雑型子宮内膜増殖症 (N=3) | 96.5±1.4 | 93.5±2.3 |
| 複雑型子宮内膜異型増殖症(N=8) | 69.3±7.9 | 67.6±9.4 |
| 子宮腺筋症 (N=30) | 32.9±16.9※ | 43.9±13.1※ |
| 高分化型腺癌 (N=38) | 36.3±17.4 | 37.1±19.6 |
| 中分化型腺癌 (N=14) | 28.9±18.6 | 28.7±16.1 |
| 低分化型腺癌 (N=6) | 22.8±17.1 | 18.6±7.8 |
※p<0.05
(椎名昌美,他,産婦の進歩,2002)
3.子宮腺筋症における遺伝子異常
子宮腺筋症は、強い浸潤能があるにもかかわらず、癌のようにひろがらないという
奇妙な病態を示す疾患である。おそらくこのような病態を規定しているのは、なんらかの
遺伝子異常によるものと想定されるが、子宮腺筋症における遺伝子異常の報告はほとん
どいない。ras−kがMMPの調節をしている可能性の報告もあり、子宮腺筋症における
ras−k遺伝子の異常について検討した。しかし、卵巣子宮内膜症と同様、ras−k遺伝子
の異常は認められず、子宮腺筋症では、ras−kは、その進展には関与していないことが
示唆された。
(金原出版株式会社刊 「産婦人科の実際」
Vol.53 No.10 October 2004
定価2,625円(税込み)
P1433〜P1439から一部抜粋しました。)
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