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 子宮腺筋症のMRI ー入門編ー

 林 貴史、今岡いずみ、松尾昌(天理よろづ相談所病院放射線部MR部門)

 子宮腺筋症のMRI診断は、機種にあまり依存しない。良質のT2強調矢状断像を撮影することが正しい診断への最短距離である。病理学的な特徴を反映して、T2強調像で筋層内の境界不明瞭な低信号域と、内部に点状高信号の散在する像として見られるのが典型である。鑑別診断には、良性疾患として子宮筋腫、偽病変として子宮収縮が挙げられる。子宮温存療法に際しては、MRI診断が確定診断に準ずるという重みがあり、治療後は非侵襲的なモニタリングを行うことができる。

はじめに

 子宮腺筋症は、婦人科領域のMRI診断を行うにあたり日常的に遭遇する疾患である。正確な発生
頻度を特定するのことは困難で、報告により5〜70%とばらつきが見られるが、おそらく性成熟期女性
の20〜30%程度と推定されている。画像診断の第1選択は経膣超音波検査であり、MRIよりも優れた
診断能を示すとする報告から、MRIの方が優れているとする報告まである。

 現時点で、骨盤MRIで子宮腺筋症の診断が求められる背景としては、
 1)内診や超音波検査で診断に至らない例、
 2)子宮筋腫との確実な鑑別が求められる例、
 3)他の疾患に合併している例、
がほとんどを占めると思われる。このなかには、稀ではあるが子宮内膜間質腫瘍といった悪性腫瘍が
潜む可能性がある。また、子宮体癌と子宮腺筋症の合併例では、overdiagnosis/underdiagnosisを来
たしやすいことが知られている。これらの悪性腫瘍とのかかわりは、本症の診断に際して重要であり、
別稿に詳細に述べられている。(玉井 賢先生ほか論文参照)。本稿では、子宮腺筋症の基本的な
MRI所見について解説し、本症の診断を確実なものとしたい。また、治療のモニタリングとしての役割
にも簡単に触れる。 

1.撮影の基本

 一般的な骨盤MRIの撮影方法に準ずる。子宮腺筋症の診断は、phased array coil、body coilの
どちらでも可能であり、また機種にもあまり依存しない。T2強調矢状断像を"きれいに"撮影することが
最も重要で、
 1)呼吸や腸管蠕動のアーチファクトを減らす、
 2)S/N、C/Nの良い画像を得る、
といったごく当たり前の注意が診断に影響する。1)について呼吸アーチファクトは、phased array coil
を下腹壁にしっかり固定することでかなり減少する。また、body coilの場合には腹帯で固定すると有効
である。腸管蠕動のアーチファクトは、腸管運動抑制剤(ブスコパン、グルカゴン)投与や、検査前絶食
により対応する。HASTEあるいはtrue FISPといった高速撮影法の追加は、fast spin echo(FSE)
法の”保険”として有効である。

 参考までに、当院における撮影法は、以下のとおりである。
・Siemens社製1.5T装置(Magnetom Symphony/or Vision),body array coil使用
・FSE T2強調像:TR/effTE 3500/80,ETL 9,マトリットス256×256〜512,矢状断および横断像
・SE T1強調像:TR/TE 500/12,マトリックス256×256,横断像
・脂肪抑制法併用SE T1強調像:TR/TE 500/12,マトリックス256×256,矢状断像

 造影剤投与は通常、子宮腺筋症の診断能向上に役立たないと考えられている。子宮筋腫との鑑別に
苦慮する場合には、参考所見として有効かも知れないが、コンセンサスはない。(例:T2強調像でも造影
像でも境界が不明瞭であれば子宮腺筋症の可能性が高くなる)。子宮体癌との合併例では、しばしば
造影あるいは造影ダイナミック・スタディを行うが、子宮体癌の進展範囲、子宮腺筋症の病変分布、いず
れも正確な評価が困難であることはしばしば経験される。

 一般的に、異所性内膜自体には、正常内膜と同様の造影効果が認められるが、腺組織の嚢胞化が著し
ければ造影効果は消失する。病変内には低抵抗性で、血管収縮性が不十分な毛細血管が、数、表面積
ともに増加しているとされ、造影ダイナミック・スタディ早期相で、病変全体に造影効果を見ることがある。
平衡相では、子宮筋層よりもやや弱い造影効果となるものが多い。ただし、子宮腺筋症や正常の
junctionalzoneについての造影効果に、どの程度の幅があるのかについては報告が乏しく不明である。

2.正常子宮のMRI

 性成熟期女性の子宮体部は、T2強調像で特徴的な3層構造を示す。基本像は、内側から、高信号の
子宮内膜、低信号のjunctional zone,中等度信号の外層筋層である。junctional zoneがT2強調像で
低信号を示す原因として、組織学的に細胞が密で細胞外腔が少なく、水分含有量が少ないことと、核密
度が高いことが報告されている。

 この3層構造には性周期に伴う変動が観察される。子宮では月経期→増殖期→(排卵)→分泌期
→月経期・・・・・といったサイクルが繰り返されるが、子宮内膜は月経期には薄く、分泌期後期に最も
厚くなる。junctional zoneは、月経時に不明瞭、あるいは肥厚するとされる。外層筋層の信号は、分泌
期後期にやや高くなる。このため、分泌期後期において3層構造は最も明瞭で、子宮腺筋症の診断に
適している。逆に、月経期は本症の診断にあまり適さないことがわかる。

 最近の高速撮影法を用いた子宮蠕動の観察からは、生理的に合目的的な結果が報告されている。
子宮蠕動とは内膜直下筋層に認められる、微弱なリズミカルな収縮であり、明らかな方向性を持つ。
月経時には体部から頸部へ向かい、月経血や脱落物の排泄に、増殖期には頸部から体部へ向かい、
精子の輸送に大きな役割を果たしていると考えられている。分泌期後期には子宮蠕動は明らかに弱く
なり、妊卵の保持に好都合である。

 また、月経時のkinetic MRI を観察していると蠕動によりjunctional zoneが薄くなったり肥厚したり、
一定しない。これは静止画像としてのT2強調像において、上述したように月経時のjunctional zoneが
不明瞭であったり肥厚したり、という現象を説明するものとして非常に興味深い。

 kinetic MRI

同一断面の連続撮像にて得られた数十枚の画像をつなぎ合わせて、シネマモード表示したものである。多くの場合、HASTE、true FISPなど高速撮像法で、1断面1秒程度の撮像時間で得た画像を10倍速程度で再生する。子宮蠕動などの動態観察や癒着の評価に有用である。

3.子宮腺筋症のMRI

 子宮腺筋症は病理学的に、異所性内膜組織の筋層内浸潤と間質反応、周囲の平滑筋細胞増生から
成る。MRIはこれを反映して、T2強調像で筋層内の境界不明瞭な低信号域と、内部に点状高信号の
散在する像として見られるのが典型である。CTにおいては、単純、造影のいずれにおいても、これらの
特異的な画像を描出するのが困難であることは容易に理解される。したがって、内診や超音波検査に
情報を追加したい場合の選択肢は、CTではなくMRIであると言っても過言ではない。

1)筋層内の境界不明瞭な低信号域

 子宮腺筋症のT2強調像において、最も特徴的である所見は”筋層内の境界不明瞭な低信号域”である。
この低信号域は、junctional zone と同程度の信号で、junctional zoneと継続しており、junctional zone
の肥厚と表現されることも多い。カットオフ値を12mm以上とすると、子宮腺筋症の診断能が最も高いと報告
されている。

 病変はjunctional zoneに沿って全周性に分布する場合、非対称な分布により正常なjunctional zone
と病変が共存する場合、筋層腫大が明瞭な場合、不明瞭な場合とさまざまである。稀には、junctional
zoneとの連続性が明らかではなく、筋層内に孤立して限局性腫瘤様に認められる場合がある。
adenomyomaと呼ばれ、子宮筋腫との鑑別診断に苦慮する。

         表 子宮筋腫と子宮腺筋症のMRI

子宮筋腫 子宮腺筋症
T2強調像 低信号 低信号
境界 明瞭 不明瞭
変性 さまざまな形態の高信号域 (-)
異所性内膜 (-) 点状高信号域
flow void sign (+) (-)

 病変が奬膜側優位に分布し、junctional zoneと連続しない像が、子宮内膜症との合併例でしばしば
経験される。奬膜側から子宮へ浸潤した子宮内膜症病変を反映していると推測され、本来の子宮腺筋症
とは発生機序が異なると考えられる。このような場合の画像診断としては、junctional zoneの肥厚の
有無、病変の位置、および子宮内膜症病変の合併がある旨をきちんと記載して、依頼医に伝達することが
重要と考えている。

 2)異所性内膜組織

 T2強調像で低信号を示す病変の内部には、しばしば点状高信号が散在する像が認められる。異所性
内膜組織に相当すると考えられており、出血を伴うとT1強調像で同部に高信号を認める。このように微
小なスポットが多発している状態は、Swiss cheese appearanceとも呼ばれる。

 子宮腺筋症の異所性内膜は、組織学的には子宮内膜基底層に類似し、月経周期に応じた変化は正常
子宮内膜とは異なり、出血やヘモジデリン沈着は目立たないとされる。プロゲステロンに対する反応に乏
しく、分泌期像は不完全であったり欠如していることが多い。このため、T1強調像で観察される出血は
数mm程度の点状出血に留まる。子宮内膜症の異所性内膜が子宮内膜機能層に類似しており、月経周
期に応じた出血が顕著で、大きな嚢胞を形成するのと対照的である。

 時折、内膜から筋層に連続する線状構造が観察され、内膜ー筋層境界が不整となっていることずある
(linear striation)。本症は良性疾患であるが、内膜基底層の筋層への"浸潤"を表す像として興味深い。
また、このlinear striationにより内膜ー筋層境界が不明瞭化する結果、あたかも内膜が拡大したかのよう
な像を示すこともある。(pseudowidening)

 3)adenomyotic cyst(cystic adenomyosis)

 稀に、子宮腺筋症の内部に出血を繰り返して、adenomyotic cystと呼ばれる大きな嚢胞を形成するもの
がある。最大22cmの嚢胞形成の報告もある。異所性内膜のなかには、エストロゲンやプロゲステロンに
対するレセプターを有し、増殖期や分泌期像を呈してホルモン反応性を示すものがあると言われ、成因の
一つかもしれない。この出血性嚢胞は、深部筋層側(奬膜側)に分布する傾向がある。一方、adenomyotic
cystが内翻し、外子宮口から逸脱した例も報告されている。
 嚢胞をT1強調像で高信号を示し、チョコレート状の血液を主体とした内容物を反映している。嚢胞壁は
T2強調像で低信号を示す。

4.子宮腺筋症の鑑別診断

 鑑別診断には、子宮体部筋層内のT2強調像で低信号を示す腫瘤性構造が挙げられる。具体的には
子宮筋腫、子宮収縮といった良性疾患や偽病変が含まれる。腫大子宮における子宮筋腫と子宮腺筋症
の鑑別は99%で可能とされ、今日では確定診断として代用されることが多く、鑑別に精通することが必要
である。

 1)子宮筋腫

 子宮筋腫は性成熟期女性の20%〜40%に見られるとされ、子宮腺筋症の好発年齢ともオーバーラッ
プする。両者の鑑別はしばしば臨床的に重要な意義を持つ。子宮腺筋症は既述のように、良性疾患で
あるが浸潤性増殖を示すため、特殊な場合を除いて核出することができない。したがって、外科的治療
としては単純子宮全摘術が行われることとなる。一方、子宮筋腫は良性の平滑筋腫であり、核出術が
可能である。このため外科的治療にも単純子宮全摘術、子宮筋腫核出術の選択肢が存在する。
妊孕性温存、子宮温存の観点から、子宮腺筋症と子宮筋腫との正確な鑑別は非常に重要である。

 子宮筋腫は、病理学的に密な平滑筋細胞と膠原繊維の介在から成る。これを反映して、T2強調像で、
"境界明瞭な低信号腫瘤"を示すのが典型的である。変性により高信号域が交じってくるため、実際は
さまざまな信号の筋腫が存在するが、高信号域に惑わされずに病変の全体像を捉えることが重要で
ある。すなわち、最初にT2強調像において病変は"境界明瞭"な低信号病変であるのか、"境界不明瞭
な"低信号病変の内部の高信号域は、子宮筋腫の変性と捉えることができる。

 "境界不明瞭な低信号病変"の内部の高信号域は、子宮腺筋症内の異所性内膜と判断することがで
きる。最初に高信号域に捉われる診断に迷いが生ずる。非常に簡便であるが、MRI初心者であるポリ
クリ学生でも、この手順で1時間指導すると80%以上の症例を正しく鑑別できるようになるという手応え
を持っている。このほかの重要な所見として、子宮筋腫周囲には、拡張した血管によるsignal voidが
しばしば認められる。(flow void sign)。筋腫が大きくなるにつれて頻度は高くなり、5cm以上で43%、
7cm以上で85%に認められたと報告されている。

 2)子宮収縮

 子宮筋層には生理的に、数十分単位のゆっくりとした収縮が散発する。T2強調像では、筋層内の局所
的な低信号域として描出される。低信号を示す原因としては、収縮による静脈駆出の影響と考えられて
いる。この低信号域は、子宮内腔側へ膨隆するが、奬膜側には変形を来たさないという特徴がある。
時間をおいて再撮像し、病変の形態や位置が変化しているを確認できれば、子宮腺筋症や子宮筋腫
などの筋層内病変と確実に鑑別できる。再撮像する場合には、HASTE、true FISPなどの高速撮像法
でも十分に対応可能である。

5.子宮腺筋症治療時のMRIによるモニタリング

 子宮腺筋症の治療には、外科的治療のほかにホルモン療法が挙げられる。また、近年では子宮動脈
塞栓術を行われることもある。これら子宮温存療法を行うに当たり、MRI診断は確定診断に準ずるという
重みがある。また、治療後のモニタリングを非侵襲的に、客観的に行うことができるモダリティでもある。

 1)ホルモン療法

  GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アナログは、卵巣機能を抑制し、偽閉経状態をもたらすことから、
子宮腺筋症の治療に用いられている。MRI上観察される子宮の変化としては、子宮内膜の萎縮、層構造
の不明瞭化があるが、可逆的である。子宮腺筋症の病巣について、異所性内膜の退縮や低信号域の
縮小を見るものがある。また、病変の境界が非常に境界明瞭となり、子宮筋腫との鑑別が困難となるもの
もあるため、読影に当たって治療歴や治療前画像を参考にする必要がある。核出術に成功した例も報告
されている。本症は、完全な消退は稀であり、治療後も月経の再開に伴って再度増悪する例が見られる。
MRIでも病変の増大を捉えることができる。

 2)子宮動脈塞栓術

 子宮腺筋症における子宮動脈塞栓術の有効性らおいて、子宮筋腫のような一定のコンセンサスは
得られていない。症状の改善に有効であったという報告は見られるが、長期的なコントロールが可能
であるか否かは、今後の検討を要する。塞栓術後のMRI所見として、子宮腫大の軽減や低信号域の
縮小、内部に梗塞による増強不良域の出現が報告されている。

 おわりに

 子宮腺筋症の基本的にMRIについて解説した。本症のMRI診断は時に確定診断に準ずる重みを持つ。
性格な診断を進め、治療支援を可能にするために本稿がお役に立てば幸いである。


 (株式会社 秀潤社 画像診断 Vol.25 No.2 2005 02
  定価 本体2200円+税 ISBN4-87962-995-2 C3347
  特集子宮内膜症・子宮腺筋症入門 P177〜P186より
           抜粋、掲載しました。)

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