子宮腺筋症のMRI診断における注意点
玉井 賢 小山 貴 佐賀恒夫 富樫かおり
(京都大学大学院医学研究科核医学・画像診断学講座)
| 子宮腺筋症に子宮体癌が合併する場合、筋層浸潤が過大または過少評価され る場合がある。子宮腺筋症から体癌が発生する場合、他の筋層腫瘤と誤認され る場合や腫瘍の同定すら困難な場合がある。さらに子宮腺筋症と類似したMRI 画像を示す悪性腫瘍も稀に経験される。本稿では子宮腺筋症のMRI診断にお けるこれらの問題点・注意点について概説する。 |
はじめに
子宮腺筋症は、性成熟期女性に見られる非腫瘍性疾患で、組織学的には内膜基底層の
筋層内への連続性浸潤と、それに伴う周囲筋層の反応性増生と定義される。MRIは、子宮
腺筋症の診断において非常に有用であり、感度、特異度は、それぞれ78%〜88%、67%〜93%
と報告されている。特に、臨床上最も重要な鑑別疾患の一つである筋腫との区別において
極めて有用である。また、子宮腺筋症に筋腫が併存する頻度は35%〜55%と非常に高い。
このように他疾患が併存する症例においては、MRIの方が経膣超音波より子宮腺筋症の
正診率が高いとする報告もある。
子宮腺筋症のMRI画像は、比較的一定で、典型的な所見を示す場合、その診断はさほど
困難ではない。しかしながら、悪性腫瘍を合併する場合や悪性腫瘍を含めた他の子宮疾患
との鑑別に苦慮する場合など、臨床的な問題をはらむ症例が存在する。たとえば、子宮腺筋
症に子宮体癌が合併する場合や子宮腺筋症から子宮体癌が発生する場合には、MRIによる
診断や病期診断にはとりわけ注意を払う必要がある。また、他の子宮疾患のなかには子宮
腺筋症と類似したMRI画像を示すものがあり、とりわけ悪性腫瘍との鑑別には慎重である
必要がある。本稿では、子宮腺筋症のMRI診断におけるこれらの注意点やピットフォールに
ついて解説する。
1.子宮腺筋症に合併する子宮体癌
子宮腺筋症の患者において、しばしば子宮体癌が発生することが知られている。子宮腺筋
症患者に体癌が発生する頻度は、1.4%と報告されており、これは、アメリカにおける体癌の
罹患率の約0.04%であることを考えると、非常に高い数字といえる。また、体癌には、約20%の
症例で子宮腺筋症が併存しているとされる。
1)子宮体癌の筋層浸潤の評価
筋層浸潤の程度は、子宮体癌の最も重要な予後因子の一つであり、リンパ節転移の頻度
とも密接に相関している。筋層浸潤の術前評価は、手術およびリンパ節郭清を計画する上で
極めて重要と考えられる。しかしながら子宮腺筋症が合併する症例においては、子宮腺筋症
のために腫瘍の輪郭は不明瞭となり、MRIによる正確な筋層浸潤の評価が困難となりうるこ
とが指摘され ている。
体癌が筋層内に浸潤する場合、ときに既存の子宮腺筋症組織に沿って広範な進展を来た
す ことがある。この場合、病理学的には子宮腺筋症内に限局する腫瘍進展なのか、真の筋
層浸潤なのかを区別する必要がある。子宮腺筋症内に限局する腫瘍進展では、癌細胞は、
子宮腺筋症の腺管と間質に完全に取り囲まれ、直接筋層には及ばない。したがって、この病
勢は真の筋層浸潤ではなく、臨床的にも予後は比較的良好とされる。
一方、真の筋層浸潤とは、文字通り癌細胞が既存の子宮腺筋症組織を破壊して、直接筋層
に浸潤する状態を意味する。この場合は、筋層浸潤が見られる筋層の深さによって病理学的
病期が決定される。この2つの病態は予後が全く異なるため、その区別は重要である。
しかし、MRI画像においては、子宮腺筋症内に限局する腫瘍進展と真の筋層浸潤とを厳密
に区別することは極めて困難である。実際、我々の施設における検討では、子宮腺筋症を合
併した体癌におけるMRIの病期診断能は非常に低いものであった。病期診断が過少評価さ
れる理由として、異所性内膜に沿って侵入する癌病変は通常microscopicであるため、実際
にMRIで捉えられないか、異所性内膜との鑑別が不可能であることが挙げられる。
一方、病期を過大評価する原因としては、子宮腺筋症による内膜筋層境界の不整が挙げら
れる。子宮腺筋症はT2強調像において、内膜筋層境界の不整、内膜から筋層内へ連続する
線上高信号("linear striation")、あるいはこれらが融合することによる内膜の"pseudowidening"
といった所見をときに示すことがある。これらは、病理学的に異所性内膜の筋層内への良性
浸潤を反映する所見であり、内膜病変やその筋層浸潤と混同してはならない。しかし、子宮
腺筋症を合併する体癌の症例においては、これらの所見が通常の子宮腺筋症病変を意味
するのか、体癌の筋層浸潤を意味するのは判別困難である。
最近の報告によると、子宮腺筋症合併体癌のMRI診断において、ダイナミックMRIがT2
強調像よりも病期診断能が高く、有用としている。しかし我々の経験によると、ダイナミック
MRIの早期相では、筋層浸潤を過大評価することによるoverstagingが少なくなかった。
我々の知る限り、子宮腺筋症のダイナミックMRIにおける所見は知られていないが、子宮
腺筋症においては、癌の浸潤がなくても早期相で非常に不均一な造影効果を示す症例が
実際にはしばしば経験される。これはおそらく、子宮腺筋症内の血流分布の不均衡を反映
するものと思われる。子宮腺筋症合併体癌の症例において、早期相でのsubendometrial
enhancementの断裂(癌の浸潤の指標とされる)が認められたり、筋層内に造影効果不良な
部分が認められても、必ずしも、癌の浸潤を示唆するとは限らないと思われる。
2)子宮腺筋症から発生する子宮体癌
稀に子宮腺筋症の内部から体癌かせ発生することがある。病理学的には、この病態の
診断基準として以下の点が重要である。すなわち子宮内膜は正常で、明らかな病変が存
在しないことと、筋層内の異所性内膜において良性の内膜癌と癌病変が連続的に移行す
ることである。この病態の報告は文献的には少ないが、腫瘍の進行により癌が内膜腔に
進展すると、体癌の子宮腺筋症内への進展との病理学的な区別が困難となることもその
要因となっている可能性がある。子宮腺筋症から発生する体癌では、早期には無症状のこ
とが多く、または内膜組織診は陰性となるため、発見時(診断時)には既に進行しており、
予後不良であることが少なくない。したがって診断のために画像診断の果たす役割は大きい
と考えられる。子宮腺筋症から発生する体癌のMRI画像に関するまとまった報告はないが、
我々の施設で経験した症例では中等度の信号を示す筋層内腫瘤として描出されることがあり、
こうした場合、富細胞性平滑筋腫(cellular leiomyoma)との鑑別が困難である。
一方、病変が子宮腺筋症内の異所性内膜に沿ってびまん性に進展する場合には、MRI
では腫瘍の同定が難しく、通常の子宮腺筋症との鑑別さえ困難となる。いずれの場合にも
明らかな内膜病変を伴わない訳であるから、MRIで体癌を積極的に疑うことは難しいと言わ
ざるえない。したがって、特に閉経後の女性において、広範な子宮腺筋症病変を認めた場合、
あるいは中等度の信号を示す筋層内腫瘤を認めた場合は、常に悪性腫瘍の可能性を念頭に
置き、臨床医に対して慎重な経過観察を薦めることも重要である。ホルモン療法にもかかわ
らず病変の増大が認められる場合には、子宮腺筋症から発生した体癌の可能性を考慮する
必要がある。
2.子宮腺筋症との鑑別を要する他の悪性子宮疾患
子宮腺筋症と鑑別を要する病変としては、第一に筋腫が挙げられるが、筋腫との鑑別に関し
ては、林 貴史先生ほか論文に詳述されているので、本稿は取り上げない。その他に、子宮
腺筋症との鑑別が問題となる病態としては、いくつかの稀な悪性腫瘍があり、これらはいずれ
も子宮筋層にびまん性または浸潤性の病変を形成するのが特徴である。
1)内膜間質肉腫(endometrial stromal sarcoma)
内膜間質肉腫は、稀な子宮間葉系の悪性腫瘍で、全子宮悪性腫瘍の0.2%、子宮肉腫の
15%〜23%を占める。しばしば20歳前後の若者層に好発するめ、臨床的には悪性腫瘍を疑う
ことが困難である。病理学的には、正常の増殖期における正常の内膜間質細胞に類似した
腫瘍細胞の増生を特徴とする。このため、内膜組織診のみでは病理診断が困難なことが少
なくない。したがって、正確な治療方針の決定において、画像診断の果たす役割は大きい。
MRI画像においては、T2強調像において内膜と同程度の高信号を呈し、内膜間質に由来
するため、典型的には内腔および筋層にまたがる腫瘍として描出されるが、広範な筋層浸潤
を来たす傾向があるため、筋層病変が主体なことも少なくない。主として、筋層内に腫瘤を形
成するものでは、びまん性の場合は子宮腺筋症と、辺縁明瞭であれば変性筋腫との鑑別が
必要となる。
内膜間質はT2強調像において、腫瘍塊の間に取り残された平滑筋束を反映する葉脈状の
低信号を見るのが特徴とされており、診断の重要な手がかりとなる。しかし、この所見は異所
性内膜の増生が顕著な子宮腺筋症でも認められる可能性があり、慎重に区別する必要があ
る。内膜間質肉腫はあくまでも腫瘍であるため、筋層内腫瘤として認められるのに対して、子
宮腺筋症は既存の筋層の限局性腫大として認められる点が異なる。
2)子宮体部筋層への転移
子宮筋層転移は非常に稀ではあるが、原発巣としては、乳癌(特に浸潤性小葉癌)が最も
多く、次いで、大腸癌、胃癌が多い。典型的には、子宮体部筋層はびまん性、対称性に腫大し、
T2強調像にてびまん性の低信号を示し、造影MRIで不均一な造影効果を示す。したがって、
MRIのみでの鑑別は困難と思われる。しかし、実際は癌の既往歴と腹水・リンパ節腫大など
の子宮外病変の有無に注意することで診断は可能と考えられる。
3)悪性リンパ腫
子宮原発の悪性リンパ腫は、極めて稀である。悪性リンパ腫が子宮に浸潤する場合、典型
的には子宮の正常構造を保ったまま、子宮筋層のびまん性腫大として認められ、びまん性子
宮腺筋症に類似したMRI画像を呈しうる。文献的には、T1強調像で均一な低信号、T2強調像
で比較的高信号を示すとされる。膣や膀胱など子宮外への浸潤や著明なリンパ節腫大を伴う
場合は、両者の鑑別は容易と思われる。
おわりに
子宮腺筋症のMRI診断における注意点を悪性腫瘍との関連性において概説した。婦人科疾
患においては良悪性の鑑別ならびに悪性腫瘍の病期診断は治療方針の決定に極めて重要で
あり、MRIの果たす役割は今後も大きいと考えられるが、その限界や問題点について熟知して
おくことも放射線科医にっとって必要と思われる。本稿が日常診療の一助となれば幸いである。
(株式会社 秀潤社 画像診断 Vol.25 No.2 2005 02
定価 本体2200円+税 ISBN4-87962-995-2 C3347
特集子宮内膜症・子宮腺筋症入門 P189〜P195より
抜粋、掲載しました。)