腹腔鏡下膣式子宮全摘術(LAVH)
Laparoscopically assisted vaginal hysterectomy(LAVH)
塩田 充氏 (助教授) 梅本 雅彦氏 飛梅 孝子氏 島岡 昌生氏
小谷 泰史氏 高橋 陽子氏 奥村 嘉英氏 星合 昊氏(教授)
近畿大学医学部産科婦人科学教室
当院では、1995年より子宮筋腫・子宮腺筋症に対するLAVHの安全な術式・適応の
確立に関する研究を行ってきた。そこで、本稿では当科におけるLAVH導入の取り組み
とその標準化について述べた。historical controlであるが、前方視的研究によるevidence
に基づき、子宮筋腫・子宮腺筋症に対するLAVHの安全な術式・適応を確立し、婦人科領
域の標準的術式となる可能性を示した。
はじめに
わが国で腹腔鏡下膣式子宮全摘術(以下LAHV)が健康保険適応となってから10年が
経過した。しかしながら、わが国で現在どの程度の症例が腹腔鏡下で手術されているかを
正確に知るのは困難であった。
日本産婦人科手術学会において、本邦で初めての腹腔鏡下手術の頻度調査が行われ、
その結果が報告されている。日本産婦人科手術学会会員の所属する559施設ないし診療
科を対象にアンケート調査が行われた。調査対象は、2004年度症例であり、回答は295
施設ないし診療科より得られた。回答率は、52.8%であった。
295の施設ないし診療科のうち、216の施設ないし診療科(73.2%)において腹腔鏡下
手術が行われていた。良性疾患に対する単純子宮全摘出術は、計13,515件で、その内訳
は腹式単純子宮全摘術(以下TAH)8,635件、63.9%、膣式単純子宮全摘術(以下VH)
3,364件、24.9%、LAVH1,253件、9.2%、全腹腔鏡下263件、1.5%であった。
すなわち、本アンケート調査によると良性疾患に対する単純子宮全摘術における腹腔鏡下
手術の割合は、いまだに10%程度であることが判明した。一方、当科では1995年寄り子宮
筋腫・子宮腺筋症に対するLAVHの安全な術式・適応の確立に関する研究を行ってきた。
そこで本稿では当科におけるLAVH導入の取り組みとその標準化について述べる。
目的
VHは、開腹術に比し手術侵襲が少ない手術方法である。しかし、適応は、手術既往・
腫瘍の大きさ・膣管の進展度などで限定される。適応外の症例に対してはTAHが選択される。
一方、LAVHは新しい術式である。本術式は、腹腔鏡下手術を併用したVHであるが、VH
同様、TAHをLAVHに安全に置き換えることを目的とし、その適応と術式、標準化を確立した。
また、適応症例の拡大を目的として、術前酢酸リュープロレリン(以下LP)療法の有用性
も検討した。
方法
1.LAVHの術式の検討
1995年1月より1996年6月までに、術者は腹腔鏡経験豊かな2名に限定し、従来は、
TAH の適応ししていた50症例に対してLAVHを行った。奨励にすべて全身麻酔下に
気腹法により行った。術式は、漸次改良を加え、技術的に3群に分類された。
第1群(6例):付属器処理に自動切断縫合器を使用し、子宮動脈は膣式に処理した。
第2群(23例):付属器処理にパイポーラ凝固を使用し、子宮動脈は膣式に処理した。
第3群(21例):付属器処理にバイポーラ凝固を使用し、子宮動脈は腹腔鏡下に処理した。
これらの手術成績を検討し、最も安全な術式を確立した。
2.LAVHの適応に関する検討
@術式の確立した1996年7月以降、2001年12月までのLAVH完遂症例259例の、
摘出子宮重量・手術時間・出血量・術後在院日数等の手術成績を検討した。この段階
での術者は指導医のもと複数となった。
ALAVHを試みながら術中合併症のために開腹術に移行した例・LAVH完遂例の術後
合併症例検討し、同時期に行われたTAH、VHの合併症と比較した。
B術中合併症以外の原因で開腹術に移行した例を対象に開腹移行原因を解析を行った。
3.適応拡大を目的とした子宮筋腫患者に対する術前LP療法の検討
確立したLAVHの適応より予想摘出子宮重量が大なる症例に対しLPを術前に投与した
20例(術前LP投与群)のLAVH施行率を検討し、同時期にLPを投与せずにLAVHを
施行した20例(LAVH単独群)と手術成績を比較し、安全な適応拡大の可能性について
検討した。
4.LAVHの標準化に関する検討
確立した術式で、適応を実施することにより子宮筋腫・子宮腺筋症に対する単純子宮
全摘術の標準的術式となりうるかを検討するために当院における本術式の頻度の変遷
を解析した。
成績
1.LAVHの術式の検討
1,2,3群の平均子宮重量は、577g、431g、462gであった。平均手術時間は、209分、
180分、188分であった。平均手術出血量は、621ml、276ml、279mlであった。平均術後
在院日数は、13.3日、10.3日、7.3日であった。出血量において第2、3群で少ない傾向
にあった。(p<0.1)
第1群では、自動切断縫合器のステープラーの滑脱を6例中2例に経験した。そこで、第2群
では、付属器の処理はバイポーラ凝固とし、子宮動脈の処理は膣式に行った。しかしながら、
子宮の大きさによっては子宮動脈の処理に苦慮したため腹腔鏡下処理を経験するにともない、
尿管損傷の可能性のリスクが上昇することを考慮したため、第2群の術式を安全な術式として
確立した。
LAVHの手順を示す。
@腹腔鏡下 円靭帯の凝固・切断、
卵管・卵巣固有靭帯の凝固・切断
膀胱子宮窩腹膜の剥離・切断
(膀胱の剥離)
(仙骨子宮靭帯の切断)
(ダグラス窩の開放)
A膣式操作 膀胱の剥離
ダグラス窩の開放
仙骨子宮靭帯の切断
基靭帯の切断
子宮動脈の結紮、切断
子宮摘出
B腹腔鏡下 子宮摘出
止血の確認
腹膜の縫合(膣断端部のみ)
洗浄
2.LAVHの適応に関する検討
1)手術成績
確立した術式(付属器処理にバイポーラ凝固を使用し、子宮動脈は膣式に処理)の手術成績は
平均子宮重量400(50〜900)g・平均手術時間143(60〜260)分・平均手術出血量209(10〜
1,646)ml・術後在院日数6.7(3〜27)日であった。
子宮重量が800g(新生児頭大)を超えると出血量は446gと有意に上昇し(p<0.05)、手術時
間は207分と延長する傾向が認めたが(p<0.1)、術後在院日数には差がなかった。その結果、
本術式の安全かつ有用な適応は子宮重量が800g(新生児頭大)以下と考えられた。
子宮重量と出血量ならびに手術時間との関係
子宮重量(g) n 出血量(ml) 手術時間(min) <100 4 113±47 82±21 100〜 23 126±80 122±22 200〜 53 173±113 138±19 300〜 63 193±122 138±23 400〜 46 204±132 147±28 500〜 35 244±132 151±27 600〜 16 315±187 156±27 700〜 14 312±153 152±28 800〜 5 446±154 207±22 259 209±134 143±26
2)LAVHの術中・術後合併症
術中合併症(すべて開腹術に移行)は、出血(術中止血困難)3例、多臓器損傷3例
(膀胱損傷2、腸管膜損傷1)の6例、2.1%に認められた。術後合併症は、出血3例
(腹腔内出血1、トロカール刺入部血腫1、膣断端部出血1)、損傷1例(尿管狭窄)の
4例、1.5%に認められた。
60例、21.3%が何らかの腹部手術既往を有していたが、術中止血困難例はいずれも
ダグラス窩を中心とする過度癒着例であった。
また、未産婦14例では全例完遂したが、帝王切開術後は10例あり、うち2例で前述
膀胱損傷を生じた。尿管損傷は膣式操作によるものと考えられた。完遂例に輸血例はなく、
合併症例で輸血を必要としたのは2例、0.7%であった。同時期に行ったTAH、VHの術中、
術後合併症はおのおの5.5%、4.7%に認められた。
3)術中合併症以外の理由での開腹移行理由の解析
癒着(ダグラス窩完全閉塞)11例、巨大広靭帯内・頸部筋腫3例、卵巣がん1例、その他
の計17例、6.0%が開腹移行した。これらの結果、ダグラス窩完全閉塞、巨大広靭帯内・
頸部筋腫は適応から除外すべきだと考えられた。上記の結果より確立したLAVHの適応
を示す。
LAVHの適応
@経膣分娩の既往があるものを原則とする
A子宮の大きさは新生児頭大以下(推定800g)
B開腹手術の既往があっても可能であるが、ダクラス窩の強度の癒着が予想あるいは
確認された症例は除外する。
C巨大広靭帯内・頸部筋腫は除外する
3.適応拡大を目的とした子宮筋腫患者に対する術前LP療法の検討
筋腫核体積は、術前LP投与群は、517±247.9cm3、LAHV単独群は、281.6±205.0
cm3であり、術前LP投与群の方が有意に大きかった。(p<0.05)、術前LP投与群はLP
投与により262.7±203.4cm3と有意な縮小がみられ(p<0.05)、LAVH単独群19例
中(脱落1例)、2例はVHが可能となり、15例はLAVHが完遂できた。両群において、手術
時間、子宮重量などの手術成績に有意差を認めなかった。結論として、確立した適応より
大なる子宮であっても術前LP投与により危険なく適応とすることが可能であると考えられた。
4.LAVHの標準化に関する検討
確立した術式、確立した適応、LPしようによる適応の拡大を根拠としてLAVHを導入した
結果、1995年度はTAHが71.3%を占めており、LAVHは、16.2%であったが、適応確立
後の2年間(2002、2003年度)に行われた単純子宮全摘術124例中TAHの比率は37例、
29.8%と激減し、LAVHは、80例、64.5%となった。その間のLAVHの術中、術後合併症
は2例、2.4%であり、LAVHは安全な標準術式となっている。
子宮筋腫、子宮腺筋症に対する術式(塩田 充ほか 2004)
※ LAVHからの開腹移行例を含む ※※ 観察後VH症例
年 TAH※ LAVH LAVH※※ VH 計 1995 97(71.3%) 22(16.2%) 17(12.5%) 138 1996 62(50.0%) 43(34.7%) 19(15.3%) 124 1997 48(43.2%) 52(46.8%) 11(9.9%) 111 1998 29(34.1%) 42(50.6%) 12(14.5%) 83 1999 22(22.4%) 59(60.2%) 6(6.1%) 11(11.2%) 98 2000 19(25.7%) 48(64.9%) 1(1.4%) 6(8.15%) 74 2001 24(32.9%) 43(58.7%) 3(4.1%) 3(4.1%) 73 2002 14(25.5%) 38(69.1%) 1(1.8%) 2(3.6%) 55 2003 23(33.3%) 40(58.0%) 1(1.5%) 5(7.3%) 69
おわりに
当科におけるLAVH導入の取り組みとその標準化について述べたい。historical
control
ではあるが、前方視的研究によるevidenceに基づき、子宮筋腫・子宮腺筋症に対する
LAVHの安全な術式・適応を確立し、婦人科領域の標準的術式となる可能性を確認した。
(永井書店 ISSN 05558−471X
『産婦人科治療』9月号
2005 VOL.91 no.3
特集 ここまできた産婦人科腹腔鏡下手術
P265〜P268から抜粋しました。 )