特集 生殖医学のニューアスペクト
不妊症にかかわる子宮腺筋症の対策
原田 省(Tasku HARADA)氏
講師 鳥取大学医学部産婦人科
〒683−0826 鳥取県米子市西町36−1
子宮腺筋症は、子宮筋層内に異所性子宮内膜組織を認める場合に用いる疾患名で
あり、公義の子宮内膜症に属する。腺筋症は、子宮摘出症例の病理学的研究から、不妊
よりも多産と関連があるものと考えられてきた。最近では、腺筋症の存在と不妊の関連性
が示唆されている。本稿では、腺筋症と不妊に関する成績を紹介する。
はじめに
子宮腺筋症(adenomyosis)は、子宮筋層内に異所性子宮内膜組織を認める場合に
用いる疾患名であり、公義の子宮内膜症に属する。従来は、骨盤内子宮内膜症が外性
子宮内膜症と呼ばれていたのに対して、腺筋症は内性子宮内膜症と呼称されていたが、
現在では独立した疾患名として用いられている。
子宮腺筋症は、性成熟期から更年期にかけて好発し、子宮内膜症に比べて、その発症
年齢はやや高齢層に移行している。すなわち、腺筋症症例は、40歳代にピークがあり、不妊
症の合併は、子宮内膜症に比較して少なく、経産婦に多いといわれてきた。腺筋症の確定
診断は、組織診断によるが、その発生頻度は、病理学的にどこまで詳細に検索されたかに
左右されるため、子宮摘出術の10%〜50%と報告によって大きなばらつきがある。一般に、
卵巣子宮内膜症のために子宮全摘術が行われた症例に高頻度に認められ、子宮内膜症と
の合併頻度は高い。子宮腺筋症と他のエストロゲン依存性疾患との関連については明らか
ではないが、子宮筋腫とのか合併率は高く、子宮筋腫症例のおよそ1/3から1/2の腺筋症を
合併するといわれている。
発生機序は不明であるが、腺筋症と子宮内膜組織との接合部が認められることがあり、
子宮内膜組織から筋層内に直接侵入することによって本症が発生するとしたCullenの説
(direct extension theory)が有力である。
1 腺筋症の病理と診断
子宮は、びまん性に腫大するが、筋腫を合併していない症例では手拳大まで、正常子宮
の2倍ぐらいまでのものが多く、小児頭大以上の大きさになることはきわめて稀である。子宮
筋層内に病巣があるため、筋層は肥厚し、特に子宮後壁に好発することから後壁の肥厚が
著明となり、弾性に富んでいる。割面は全体として境界不明瞭、桃赤色で海綿状あるいは
渦巻状を呈し、筋層内の所々に斑点状の新鮮あるいは慢性出血巣を認める。
典型的な病歴と内診で妊娠を合併していない、びまん性で弾性のある子宮腫大を触れれば、
子宮腺筋症を推定する。診断の際に最も注意すべきものは、子宮筋腫との鑑別であるが、
超音波断層法やMRIなどの画像診断が極めて有用である。子宮筋腫は、筋腫核を形成する
のに対して、腺筋症の多くは筋層内のびまん性に存在するため腫瘤を形成しないことが多く、
筋腫と腺筋症とは超音波で容易に鑑別できる。しかしながら、腫瘤形成型の腺筋症では超音波
上の鑑別は難しい。
MRIのT1強調画像では、子宮と等信号で、T2強調像では、junctional zoneと連続する不均一
な低信号を示す。境界は不鮮明で、びまん性に広がる。T2強調像で点状の高信号が散在する。
この高信号域はT1強調像で等信号なら異所性内膜組織であり、高信号なら出血を示唆する。
表1 MRIによる腺筋症の診断基準 (Devliegerの文献から改変)
| 報告者 | MRI所見 |
| Togashi,et al(1989) | junctional zoneの局所的あるいはびまん性の肥厚(T2) |
| Togashi,et al(1989) | 境界不明瞭な低信号の子宮腫瘤(T2) |
| Asher, et al(1994) | junctional zoneの肥厚>5mm(T2) |
| Kang, et al(1996) | junctional zoneの肥厚>12mm(T2) |
| Reinhold, et al(1997) | junctional zoneの辺縁が不明瞭(T2) |
| Togashi, et al(1998) | 低信号領域内の限局性の高信号病巣(T2) |
| Togashi, et al(1998) | 子宮内膜から筋層内に放射する高信号線状陰影(T2) |
2 腺筋症の症状
腺筋症は、子宮摘出時に偶発的に認められることも多く、このような場合、多くは無症状である。
病巣が広範な場合は、様々な自覚症状を訴えるが、月経困難症と過多月経が主症状である。
腺筋症による月経困難症は、月経開始直前から月経期にかけて激しい骨盤痛があり、発作性で
間欠的であることが多い。月経痛を訴える患者の子宮内圧は健常婦人のそれよりは高いことから、
子宮期の過収縮による子宮血流の減少、虚血が疼痛を引き起こすとする考えが主流である。
子宮収縮の原因としては、子宮内膜や内膜症組織におけるプロスタグラディンの産出過剰が
指摘されている。
表2 GnRHアゴニスト治療による妊娠例の報告 (Devliegerの文献から改変)
| 報告者 | 例数 | 薬剤 | 妊娠転帰 | 不妊 期間 |
薬剤中止から 妊娠までの期間 |
| Hirata, et al(1993) | 1 | ナファレリン 6ヵ月 | 10週 自然流産 | 4年 | 4ヵ月 |
| Nelson and Corson(1993) | 1 | リュープリン 20ヵ月 | 妊娠4ヵ月 | なし | 1ヵ月 |
| Silva, et al(1994) | 1 | リュープリン 5ヵ月 | 正期産 3,400g 健児 |
10年 | 5ヵ月 |
| Huang, et al(1999) | 2 | ブセレリン 3ヵ月 | 正期産 3,550g 健児 正期産 2,700g 健児 |
2年 4年 |
4ヵ月 6ヵ月 |
| Lin, et al(2000) | 2 | ゴセレリン 6ヵ月 トリプトレリン 6ヵ月 |
正期産 3,150g 健児 28週 正常妊娠 |
6年 3年 |
2から6ヵ月 |
3 腺筋症と不妊
腺筋症は、元来、不妊というよりも多産との関連があるものと考えられてきた。この知見は、子宮
摘出術後の病理学的研究から、腺筋症の頻度が多産の症例に多く見られたという成績に基づ
いている。最近では、腺筋症の存在と不妊の関連性が示唆されている。しかしながら、いまだ腺
筋症と不妊を結びつける直接的な証拠が得られているわけではなく、薬物あるいは手術療法後
に妊孕能が回復した成績が示されているに過ぎない。
子宮内膜症は、ヒトだけてなくヒヒにおいても発生することが知られている。およそ3,800匹の
ヒヒの剖検成績から、37匹の腺筋症をもつ個体と38匹の正常子宮の個体を対照として抽出し
妊娠歴について比較した。腺筋症は、子宮内膜症の存在と有意な関連性が認められた。腺筋
症が存在すると不妊歴を有するヒヒの割合が有意に高くなることも明らかとなった。この腺筋症と
不妊の関係は、子宮内膜症が共存した例を除外しても認められた。
これまで、腺筋症に関する研究は、すべて病理診断に基づいて行われてきたが、最近になって
MRI検査の発達によってMRI診断に基づいた腺筋症と子宮内膜や不妊症との合併頻度が検索
されている。227例の不妊症患者に腹腔鏡診断を行い、子宮内膜症と診断された160例に内膜症
のなかった67例を対象とした成績が報告されている。MRIによる限局性あるいはびまん性の腺筋
症の診断頻度は、子宮内膜症患者において、79%(126/160)と内膜症のない患者の28%(19/67)
に比較して有意に高かった。さらに、不妊原因が子宮内膜症とだけと考えられる36歳以下の患者で
パートナーの精液所見が正常の30例を対象として検討している。対象例中20例が後壁のjunctional
zoneが10mm以上という基準で診断されたびまん性の腺筋症がみられ、残りの10例中7例におい
て局限性の腺筋症が診断された。したがって、これらの症例では、90%(27/30)に腺筋症が存在
したことになり、腺筋症の存在が不妊原因となるものと推測している。この著者らは、腺筋症による
不妊は腺筋症の存在によって子宮筋の構造が変化して、正常子宮でみられる子宮収縮による
急速かつ持続的な精子輸送が障害されることによるのではないかと推測している。MRIにより、
腺筋症をほぼ確定診断できことから、今後は腺筋症の頻度と不妊の関与がさらに明らかになる
ものと期待される。
腺筋症が不妊原因となることは、GnRHアゴニスト治療後の妊娠例の報告からも示唆されて
いる。表2に報告されている妊娠例についてまとめた。不妊期間が長い症例も多く、いずれの
症例もGnRHアゴニスト治療後短期間に妊娠が成立していることから、腺筋症の存在が主要な
不妊原因となっていたものと考えられる。
(金原出版株式会社『産婦人科の実際』
特集 生殖医学のニューアスペクト
vol.55 NO.2 February,2006
ISBN 4910040250265 定価2,730円
P227〜P230を抜粋・掲載しました。)