基礎講座
子宮腺筋症の歴史
1860年、von Rokitanskiは、子宮腺筋症を 「cystosarcoma
adenoids uterinum」と表現し
ていた。その後、子宮腺筋症は、子宮筋腫の特殊型と見なされることもあった。1896年には、
Recklinghausenは、子宮腺筋症の存在を認識した。1908年、Cullenは、子宮腺筋症を
「adenomyomata」と呼び、子宮内膜組織が直接筋層内に侵入したものであるということを認め
ている。現在認められている「adenomyosis uteri」という診断名は、1925年、Frankl
により提唱された。
World Health Organization(WHO)の組織学的分類では、類腫瘍病変
(tumor-like leison)として分類される。
液性免疫系との関係
自己抗体・免疫グロブリン
子宮内膜症では、抹消血中に自己抗体が高率に認められ、自己免疫現象が
存在することが知られている。
免疫組織化学的に免疫グロブリンの沈着は正常婦人では殆どみられない。
子宮腺筋症では、同組織中の腺上皮にIgGが著明に沈着している。
補体
補体とは、免疫グロブリンと反応して抗原抗体反応を促進する物質の一群である。
正常例では子宮内膜への補体の沈着率はかなり低い。子宮腺筋症で補体の沈着は高率である。
フリーラジカル系との関係
スーパーオキシド消去酵素(SOD)
正所性子宮内膜において、SODは、子宮内膜腺や被蓋上皮に分布している。SODは
増殖期で低く、分泌期で高いパターンを示す。子宮腺筋症の異所性子宮内膜に、
Mn−SODが分布しているとの報告があり、SODがその病態に関与していると予想されている。
ホルモン応答能
エストロゲン依存性腫瘍とアロマターゼ
一般に、エストロゲン依存性腫瘍は細胞内にエストロゲンレセプター(ER)を有する。
血中のエストロゲンは、ERと結合して、様々な増殖因子などを産出し、その結果、腫瘍組織の
増殖が促進される。腺筋症は、一般的にERを有している。組織内にERだけではなく、エスト
ロゲン生合成酵素であるアロマターゼを同時に有していることが分かってきた。
すなわち、体循環のエストロゲンに反応するだけでなく、腫瘍組織自身でエストロゲンを産出し、
その局所濃度を高めている可能性がある。
子宮内膜組織におけるエストロゲン代謝
血中エストラジオール(E2)濃度は、正常婦人と子宮腺筋症を有する婦人の間では差がな
かったが、月経血のE2濃度は、子宮腺筋症>子宮内膜症>正常婦人であった。このことから、
局所でのE2産出が亢進していると考えられる。組織において、アロマターゼの主要構成成分
であるアロマターゼ・チトクロームP450(P450arom)mRNAおよび蛋白の発現が証明された。
また、正所性子宮内膜では、E2を活性の低いエストロン(E1)に変換する酵素である17β
ヒドロキシステロイド・デヒドロゲナーゼ2型mRNAとその活性が欠如しており、よりE2の局所
濃度を高めている。
アポトーシス
アポトーシスとは、遺伝子発現により制御された生理的な細胞死である。Bcl−2は、ヒト濾胞
性B細胞リンパ腫におけるt(14;18)の染色体転座から発見されたガン遺伝子で、その産物で
あるBcl−2は、アポトーシス抑制因子である。Fasは、アポトーシスを誘導する膜蛋白である。
子宮腺筋症組織は、アポトーシス・Bcl−2・Fasの発現において正所性内膜組織と同様の動態
を示し、両組織は同一の性格を有する。
子宮腺筋症に対するダナゾール局所投与療法
群馬中央総合病院 五十嵐正雄氏・福田正樹氏
大宮日赤病院 安藤昭彦氏・宮坂牧宏氏・田口宏中氏
公立藤岡病院 吉田光典氏
群馬大学医学部産科婦人科 安部由美子氏
ダナゾール局所投与を始めた動機
1986年、東京田辺製薬に依頼してダナゾール含有膣リングを試作してもらい、ダクラス窩に
内膜症を触診する患者の膣内に挿入したところ、月経痛は急速に無くなり、ダグラス窩の硬結・
圧痛も改善され、膣リング挿入中に妊娠する不妊女性が続出した。1991年以降は、五十嵐氏
が自身でダナゾール含有膣リングとIUDを作製し、何回も改良を重ねて1997年以降、ほぼ理想
的リングとIUDを完成した。
子宮腺筋症に対するダナゾール含有IUDの効果
子宮腺筋症は激しい月経痛と過多月経、不妊の原因となる疾患である。避妊用IUD FD−1の
表面にダナゾール200mg〜300mgを含有するシリコンゴムを付着させたダナゾールIUDを子宮腺筋
症の子宮腔内に3〜6ヶ月挿入したところ、挿入中は茶褐色のおりものが断続したが、全身的副作用
は全く認められなかった。
21例中、月経痛が消失したものが65.0%、軽快したものが35.0%、無効0%で、過多月経が
消失したものが76.5%、軽快したもの11.8%、子宮筋層の厚さが5mm以上減少したものが、
57%、増大したものが0%であった、
血中CA125が治療前が治療前以上高値を示した例は、治療中およびIUD抜去後も全例減少を
示した抜去後妊娠に成功したものは、子宮筋層の厚さが35mm以下の群で、50.0%、35mm以上
の群では、0%であった。
ダナゾールIUD挿入中の血中ダナゾールは検出不能であったので、排卵・月経は挿入中でも認められ
また全身的副作用皆無であった。従来、LH−RH analog療法やダナゾール経口投与後再発した
子宮腺筋症も、この治療法で全治または改善していることは注目に値する。
参考図書
(株式会社 日本臨床社 日本臨床増刊号 『子宮内膜症』 −最新の考え方と治療動向−
編 著 東京大学医学部 教授 武谷 雄二 ISBNコード T1106916015882 定価5800円
本体 5600円 日本臨床 59巻増刊号1(通巻 774号)より抜粋しました。)