子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術(UAE)
の効果と問題点
(子宮腺筋症の部分を中心に抜粋しました。)
中村幸雄氏※1 岡宮 久明氏※2 大島 重雄氏 小菅 浩章氏
百村 麻衣氏 可知 謙治氏※3 城田 万紀子氏※4
社会福祉法人康和会久我山病院産婦人科
※1 病院長 ※2 副病院長 ※3 放射線科 ※4 麻酔科
UAEは、症状を伴う子宮筋腫のため何らかの処置を必要とするも、手術的治療を
希望しない症例が適応となる。UAE後約1年間にわたって子宮筋腫は約40%以下に
縮小し、過多月経、月経困難症も解決される。施行に際しては産婦人科医、放射線科医、
麻酔科医三者の密接な連携が必要である。大きな粘膜下筋腫、子宮内膜に接する
筋腫核が存在する場合には、変性・壊死した筋腫核の感染のため発熱、膿性帯下など
がみとめられることがある。この場合はただちに掻爬、経頸管的切除が必要である。
はじめに
子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術(utrerin artery embolization,UAE) とは、子宮筋腫による
過多月経、貧血、月経困難症などの症状を有し、何らかの処置を必要とするも、開腹手術を
希望しない症例に対し子宮筋腫の栄養血管である両側子宮動脈の縮小を目的とした低侵襲な
治療法である。
その歴史は、比較的新しく欧米ではRavinaらにより1994年頃から、わが国では放射線科の
Katsumoriらにより1999年頃から開始され、われわれも1999年の秋から杏林大学で、2002
年9月からは久我山病院で始めた。
すでに欧米では、子宮筋腫治療法として広く用いられていね。わが国では健康保険が
認められていないこともあり、施行している病院はまだ少ないが、子宮動脈塞栓療法研究
会の平成17年度の調査では全国約50ヵ所の施設で行われている。UAEは、今後は
欧米と同様に子宮筋腫の治療法として外科的方法と二分する治療法になることは確実で
ある。本稿では、久我山病院にてUAEを行った症例について、その成績、問題点につき
述べることとする。
UAEの適応
適応は、筋腫による過多月経、貧血、月経困難症、不妊のために何らかの処置を必要
とするも開腹手術を希望せずUAEを希望する症例とする。筋腫の数、大きさ、位置、挙児
希望の有無に関係なく、いかなる筋腫でも本人が希望する限り適応となる。しかし、子宮
内膜に接する筋腫核、巨大筋腫、頸部筋腫、挙児希望者では後述するように術後の経過、
効果について前もって十分な説明と同意が必要である。悪性腫瘍、妊娠、感染症、造影剤
に対するアレルギーなどを除外しておくことは勿論である。
方法
一般的な手術前検査のほか悪性腫瘍、感染症などの否定をUAE前に行っておく。
久我山病院では、UAE当日の午前に入院させ、午後からUAEを行っている。まず麻酔科医
が硬膜外麻酔を行い、硬膜外にチューブを翌日まで留置し、チューブから麻酔剤を適時追加
投与しUAE中、後の疼痛軽減を図る。硬膜外チューブ挿入後に放射線科医がUAEを施行
するが、このとき必ず症例の選択、術後のfollow upに関与する産婦人科医が立ち会い、UAE
の助手を務める。
UAEの実際は、まず穿刺する右鼠径部を念のため局所麻酔したあと、右大腿動脈を穿刺、
ついで右大腿動脈を経てカテーテル先端できるだけ左子宮動脈上下枝移行部まで挿入する。
3〜4回のポンピング法によって細かくしたスポンジゼルをカテーテルから注入して塞栓を行う。
塞栓後は、血管造影を行い血流が停滞したことを確認後、右側にカテーテルを移し同様な処置
を行う。
所要時間は、硬膜外麻酔に約15分、症例によって異なるがおよそUAEに30分〜60分、
合計約1時間〜1時間30分で終了する。
カテーテル抜去後は10分くらい右大腿動脈穿刺部位を圧迫固定し、さらに術後約3時間
ベット上安静とし、翌日の午前に硬膜外チューブ抜去、午後退院している。
硬膜外チューブを抜去すると今までほぼ無痛であったため、軽い疼痛を訴えることがある。
UAEが有効なメカニズム
すでにわれわれは、UAEがなぜ子宮筋腫収縮に有効であるかについて述べてきたが、
その要点は、正常筋層、子宮内膜には子宮動脈以外の動脈、例えば卵巣動脈、膣動脈
など多数の栄養血管が存在するため、子宮動脈が一時的に塞栓されても、その機能には
影響を与えないと考えられる。しかし、筋腫核は、もともと血流が少ないうえ、主として両側
子宮動脈から栄養されているため、例え一時的であっても子宮動脈が塞栓されるとその
打撃は大きく、回復不能となり変性、縮小に向かうと考えられる。
子宮腺筋症
子宮筋腫に子宮腺筋症を合併することはしばしば見られる。腺筋症に対するUAEの
効果については、一般的に経過観察期間は短いが、無効、適応外という報告、子宮筋腫
の場合より縮小効果は少ないが、月経痛などの症状改善がみにれるという報告など、効果
については一定の見解はえられていない。しかし、最近Kimらは子宮腺筋症のみで子宮
筋腫を伴わない43症例にUAEを行い、月経困難症97.7%、月経過多93%に効果を認
めたと報告している。
子宮筋腫の場合は、通常子宮動脈を栄養血管としているため、筋腫核のみを変性・壊死
させることが可能であるが、子宮腺筋症の場合は、病変が子宮筋層内に広く分布している
ことが多いため、病変のみを変性・壊死させることが困難である。このため、UAEの子宮
腺筋症縮小に対する効果は子宮筋腫に対するほど著しくなく、われわれも子宮腺筋症に
対して積極的にUAEを行っていなかった。
しかし、最近のわれわれの子宮腺筋症のみの16症例の経験では、表2に示す如く月経
痛、過多月経に対して16症例中再発3例、無効1例、不明1例で、多くの症例で有効で
あった。有効な症例では「嘘みたいによくなった」と言う言葉も聞かれる。CA125(術前
を100%とする)は、1ヵ月後には一時的に181.2±38.8%(N=13)と上昇、12ヵ月
後には、65.7±9.7%(N=5)と低下した。MRIによる子宮体積の変化は、子宮筋腫に
対するUAEの症例に比べ縮小は少なかった。
腺筋症の月経困難症に対して、月経困難症に対して鎮痛剤以外に有効な治療法が
ない現在では、UAEは極めて有効な方法と思われる。しかし、経過観察期間が長い
症例でも2年間と短いため、再発の可能性があり、その効果を判定するためには、今後
さらに症例の増加と経過観察が必要と思われる。
表2 UAE後の子宮腺筋症の月経時症状に対する効果
| 年齢 | 結婚妊娠歴 | UAE後月数 | 月経痛 | 月経量 | 子宮体積 | CA125 | UAE効果 | |
| 症例1 | 36歳 | 未婚 | 1年 | 強⇒減少 | 多い⇒減少 | → | ↑ | 有効 |
| 症例2 | 37歳 | 既婚0g0p | 2年 | 強⇒減少 | 多い⇒減少 | ↓ | ↑ | 有効⇒無効 |
| 症例3 | 44歳 | 未婚 | 1年9ヵ月 | 強⇒減少 ⇒再発 |
非常に多い ⇒減少 |
↑ | ↑ | 有効 |
| 症例4 | 46歳 | 未婚 | 1年 | 軽度⇒無 | 多い⇒減少 | ↑ | → | 有効 |
| 症例5 | 42歳 | 4g4p | 1年 | 強⇒無 | 非常に多い ⇒減少 |
↓ | ↓ | 有効 |
| 症例6 | 48歳 | 2g2p | 2年 | 軽⇒無 | 非常に多い ⇒減少 |
↓ | ? | 有効 |
| 症例7 | 36歳 | 既婚0g0p | 1年3ヵ月 | 強⇒無 | 非常に多い ⇒減少 |
↓ | ↑ | 有効 |
| 症例8 | 45歳 | 2g1p | 1年6ヵ月 | 極めて強 ⇒減少 |
多い⇒減少 | ↓ | → | 有効 |
| 症例9 | 37歳 | 未婚 | 1年 | 強⇒減少 ⇒再発 |
多い⇒減少 | ↓ | ↓ | 有効⇒無効 |
| 症例10 | 45歳 | 未婚 | 1年6ヵ月 | 強⇒無 | 多い⇒減少 | ↓ | → | 有効 |
| 症例11 | 37歳 | 未婚 | 2年6ヵ月 | 強⇒無 | 多い⇒減少 | ↓ | ↑ | 有効 |
| 症例12 | 49歳 | 2g0p | 1年 | 中等度⇒ 減少⇒再発 |
多い⇒減少 | ↓ | → | 有効⇒無効 |
| 症例13 | 41歳 | 未婚 | 1年6ヵ月 | 中等度⇒ 変化無 |
非常に多い ⇒変化なし |
? | ↓ | 無効 |
| 症例14 | 51歳 | 既婚 | 10ヵ月 | 強⇒減少 | 多い⇒無月経 | ↑ | → | 有効 |
| 症例15 | 41歳 | 既婚0g0p | 5ヵ月 | 軽度⇒変化無 | 多い⇒減少 | → | ↓ | ? |
| 症例16 | 39歳 | 未婚 | 6ヵ月 | 強⇒減少 | 普通⇒減少 | ↓ | → | 有効 |
UAE後、効果無効の1例、再発の3例、術後経過観察不能の1例を除く11例は月経困難症は 軽快し、月経血量も減少した。 |
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おわりに
UAEの効果は極めて優れており、今までの問題点として指摘されてきた術後の変性
筋腫の感染に対しては、ただちに処置することにより、また術後の疼痛に対しては硬膜
外麻酔の併用によって十分解決可能である。今後欧米のように手術的方法と並んで
広く用いられるべき方法と思われるが、そのためには、UAEに精通した産婦人科医と
放射線科医との密接な連携が必須である。
(永井書店 産婦人科治療 2006年
VOL.92 No.3
特集 EBMに基づく子宮筋腫の診療
定価2,625円 260〜270の一部
から抜粋し掲載しました。)