子宮筋腫に対する集束超音波治療
福西 秀信氏 船木 馨氏 丸尾 猛氏※
慈恵会新須磨病院婦人科 ※神戸大学医学部産科婦人科学教室 教授
集束超音波による子宮筋腫の治療は腹壁外から超音波を照射して筋腫核だけを
焼灼する方法で、非常に非侵襲の治療といえる。しかし治療に当たっては、MR装置
の中で不動の状態で3〜4時間腹臥位を強いることになる。焼灼効果は、MRI−T2
強調画像で子宮筋層よりも低信号の筋腫は良好であり、6ヵ月・12ヵ月後と筋腫の
縮小が期待できる。一方、MRI−2強調画像で子宮筋腫よりも高信号の筋腫では
焼灼効果が不確実であるため現在の機器バージョンての治療は勧め難い。
はじめに
長音寺による腫瘍の治療はすでに60年以上前に試みられていた。しかし、焼灼部位の正確
な確認が困難であったこと、温度上昇を把握することが出来なかったために、実用化には限界
があった。約10年前からMRIを使っての位置確認や温度測定ができるようになったことから、
動物実験で腹壁外より超音波を照射して腫瘍の治療をすることが可能になった。2003年には
集束超音波治療装置ExAblate2000(InSightec)による子宮筋腫の治療に対する安全性や有用
性が報告され、2004年6月より当院でもExAblate2000TMを導入して子宮筋腫の集束超音波
治療(FUS)を行ってきたので、現在までの治療成績を報告する。
装置の概要
超音波治療装置ExAblate2000TMは、1.5ステラのMRI装置内に設置して儲けられ、超音波
治療の全ての工程をMRI装置で監視する。治療用ベッドには密閉された水槽内に凹状のトラン
スデューサーが内蔵されており、その表面に208個の超音波発生源装置が配置されている。
これらの超音波の振動エネルギーを一点に集束させることで集束部位での温度上昇惹起させ、
筋腫組織を凝固壊死させる。トランスデューサーは上下(頭側から足側)左右方向に傾斜を
かけることができるが、腹壁川への深さ方向へは移動せず、位相差を利用して深さを調節する。
このように、トランスデューサーの物理的な方向の変換に加えて、超音波の位相差を組み合
わせて、直径1.5〜6.0mm、長さ10〜45mm程度の円柱上の集束部位を作る。集束超音
波の照射によって温度上昇が60℃から90℃になれば非可逆的な組織変性が起こり、子宮
筋腫の治療が可能になる。超音波の周波数は、一般的な診断装置に使用されるものよりも低く、
0.95〜1.35MHzまで可変である。
治療の実際
既報の手順の従い、MR室に入室、治療を開始する。治療用ベッド上に腹臥位になって腹壁
と装置のジェルパッドを密着させた状態で、MRIの矢状断、横断、冠状断の3方向の撮影を行
い、このMRI画面上で筋腫内部に治療計画を立てる。
治療計画の段階で、超音波集束部位やその軌道を確認し、超音波の前方の軌道から腸管、
恥骨などを排除し、後方では坐骨神経を保護する。超音波による温度上昇の程度を焼灼毎に
確認する。治療計画部位をスポットごとに塗りつぶすように焼灼を繰り返せば大きな筋腫結節
にも十分な熱凝固領域を形成することができる。筋腫の長径が約8cmのものでは焼灼と冷却
を繰り返すことによって約3〜4時間の治療時間を要する。この間患者は腹臥位てせ不動の態
勢が必要となる。
FUSの適応と適応外の基準を表1に示す。
表1 適応症と適応からの除外基準
適応症
●筋腫に基づく症状があねもの
●筋腫核が直径3cm以上、10cm以下であることが望ましい。
●治療をする筋腫核が4個までのもの。
●有茎性筋腫(粘膜下、奨膜下)でないこと。
●MRIにて筋腫が確認できるもの(とくにMRI−T2強調画像で低信号の筋腫)
●MRIにて造影効果がみられるもの。
除外基準
○MRI検査(造影も含めて)が受けられない場合。
ペースメーカー装着者、閉所恐怖症、喘息合併者
○超音波通過域に(手術)創部のあるとき。
帝王切開など
○腹壁から14cm以上深く仙骨付近に筋腫があるとき。
○重篤な全身疾患の合併
心筋梗塞、脳梗塞、不整脈、悪性疾患
○妊娠、授乳中
○骨盤内臓器に炎症を伴う場合
○過去3ヵ月以内の経口避妊薬服用者
○筋腫と腹壁の間に腸管の介在する場合
○閉経しているとき。
治療成績
1.早期焼灼効果
われわれは、子宮筋腫を治療前MRI−T2強調画像から3型に分類し、FUSにおける治療
効果の予知の可能性について検討してきた。治療直後に非造影領域として計測される体積比
を焼灼領域率と定義し、早期治療効果の指標とした。骨格筋と同程度に低信号の筋腫をT型、
中間の信号のものをU型、正常子宮筋層よりも高信号の筋腫をV型として分類し、各型での焼
灼効果を検討したところ、焼灼領域率は、T型(n=37)では53±24.2%、U型(n=42)で
は51.5±20.5%、V型(n=16)では33.3%±15.1%と、V型ではT型、U型に比較
して有意に小さくなった。(p<0.01)。T2強調画像で高信号を呈することは、筋腫内の血液
や水分量または筋腫の変性などと関係し、このことが早期治療効果と関連すると思われ。
2.中期治療効果(縮小率)
治療後6ヵ月目の筋腫体積の変化を中期治療効果として検討した。初期治療で筋腫の辺縁
近くまで十分に焼灼できた筋腫では、6ヵ月後の非造影領域はさらに辺縁まで広く認められた。
一方、初期治療が辺縁不整な焼灼に終わったものでは残存筋層組織からの再発傾向が見ら
れた。前治療としてGnRHa療法が行われたものでは初期治療が比較的良好であったものでも、
残存組織から再発が見られた。今回はGnRHa治療を受けていない症例に限って、その焼灼
領域率と6ヵ月後の縮小率と検討してみたところ正の相関(r=0.64,p<0.01)が見られた。
このことからV型の筋腫では早期焼灼効果が低く、現在の装置バージョンでは治療は勧めない
こととした。
3.治療後の筋腫体積の推移
治療後、12ヵ月までフォローできた6症例について、筋腫体積の推移を示す。治療後の
筋腫は、6ヵ月、12ヵ月と縮小を続ける傾向が認められた。1症例について治療後に筋腫
の増大を認めたが、この症例は超音波の通過範囲の確保が困難であったために当初の
焼灼領域率が19%と非常に低かった例であり、初期治療が不十分であったためにこのよ
うな経過をとったと思われる。なお前治療してGnRHa療法が行われたものは今回の検討
から除外した。
問題点と今後の展望
1.造影剤使用禁忌症例の扱い
MRI検査では造影検査を追加することよって、病変部の詳しい情報を得ることができ、
FUS治療終了後の治療効果の判定に際して、必須の検査として位置付けられる。
しかし、喘息のある症例では造影剤は禁忌とされており、このためFUS治療適応から
喘息合併者は除外されなければならない。その対策としてMRIの拡散強調画像(DWI)
では浮腫や壊死部分が高信号領域として描出されることを利用して、DWIをを造影画像
に代わる焼灼領域の評価法として検討した。この方法は、造影剤使用不可のものに対して
もFUS後の焼灼領域の推定に役立つと思われた。
2.標準的治療に要する時間短縮への対策
腹臥位で約4時間を不動の状態でいることは患者にとって強い苦痛である。個々の治療
スポットを大きくする。複数のスポットを同時に治療するなど装置のバージョンアップにより
治療時間の短縮が求められないか、治療担当者からの意見として具申している。短期間に
快適に治療が受けられてこそ真の意味での非侵襲の治療といえるわけで、現時点では低
侵襲の治療といわざる得ない。
3.他疾患、多臓器への応用
FUSでは、子宮筋腫や乳がんの治療のみでなく、広く多臓器に対しても腫瘍を壊死させ
て治療が可能と思われる。婦人科疾患では子宮筋腫と類似した症状を呈する子宮腺筋症
への応用が可能ではないか、倫理院回の承認を得て検討を準備中である。
(永井書店 産婦人科治療 2006年
VOL.92 No.3
特集 EBMに基づく子宮筋腫の診療
定価2,625円 280〜2840の一部から
抜粋し掲載しました。)