子宮腺筋症に対する子宮温存手術
藤下 晃氏
長崎市立市民病院産婦人科 診療部長
子宮腺筋症は従来、摘出子宮の病理組織学的診断より確定される症例が多かったが、
MRIの普及により術前の診断が可能となってきた。温存手術は核出術、減量(減少)術、
縮小術、部分切除術などさまざまな表現が用いられており、不妊・不育症患者および難治
性腺筋症で子宮温存を希望する患者に対して適応される術式である。術式に関しては、
報告者より様々な創意と工夫が行われているが、術式自体は難易度が高い訳ではない
ため、今後本邦で徐々に広がっていく術式の一つであろう。
はじめに
子宮腺筋症は、子宮体部に発生した子宮内膜症で、以前は内性内膜症と称されたものである。
子宮全体がびまん性に腫大し、病変と正常筋層の境界が不鮮明で、組織学的には筋層内に子宮
内膜組織が証明される。症状しては、月経困難症、下腹部痛、月経過多などがみられ、以前は
摘出した子宮の病理組織で診断される例が多かったが、最近ではMRIの普及により術前に診断
が確定される例も増加しているものと思われる。また、不妊症、不育症などの患者で腺筋症が発見
例も遭遇するようになり、手術療法としての子宮温存手術が試みられている。
本稿では、文献的報告からEBMに基づいた子宮腺筋症に対する子宮温存手術の特徴および
治療成績などにまとめてみる。
子宮腺筋症温存手術
子宮腺筋症に対する温存手術を最初に報告したのは、1952年、Hyamsであり、彼は若年者に
対する保存手術としてhysteroplastyという言葉を用いている。子宮に縦切開を加え、奨膜面をT字
鉗子で挟鉗し、その切開面から子宮奨膜を子宮内膜の間の腺筋症組織を両側に、鋏刀を用いて
一つ一つ抉りとるように切除すると記載している。
26歳と22歳の2例に対してhysteroplastyを行い、うち一例は妊娠し、帝王切開で生児を得た
と報告している。Van Praaghは、1965年に前壁と後壁の腺筋症に対して、楔状に切除し腺筋
症部分を切除する術式を施行し、月経困難症が改善いした1例を報告している。また、Woodら
は、腺筋症に対する保存手術として内膜切除、電気凝固による腺筋症部分の摘出および筋層
切除術などを15例に施行し、臨床的な改善がみられたことを報告している。
Fedeleらは、腺筋症28例に温存手術を施行し、妊娠率は72%(13/18例)に達し、全部で
18回の妊娠が成立し、9例(50%)が満期産で、7例(38.8%)が自然流産、一例が子宮外
妊娠、一例が新生児死亡を伴う早産であったと述べ、36ヵ月のフォロー期間中での累積妊娠
率は、74.4%に達したことを報告している。
一方、本邦では子宮腺筋症に対する温存手術を最初に報告したのは川村・印牧らが最初で
ある。1990年に37例の腺筋症核出術を施行し、術後7例が妊娠したことを報告している。
川村・印牧らの手技は、手術用顕微鏡下に子宮奨膜面にメスにて縦切開を加え、奨膜と筋層
をメスならびにクーパーを用いて剥離し、腺筋症の腫瘤部分を露出させ、ブグ刺身状に削り
落とす方法で子宮の縮小をはかると記載している。
また、1997年、渡辺らは21例の腺筋症合併不妊症に温存手術を施行し、14例(66.7%)
に妊娠が成立したことを報告している。子宮腺筋症部分の頂点の子宮壁にメスで縦に楔状の
切開を加え、単鈎鉗子で腺筋症部分を挟鉗牽引し、クーパー剪刀で腫瘤の表面を擦るように
して切除する方法を行っている。この頃から腺筋症の温存手術が広く一般の関心を得るよう
になり、さまざまな術式の工夫が行われてきた。
杉並らは、58例に温存手術を施行し、37例の不妊症のうち17例(46%)に妊娠が成立し
、月経痛や過多月経の改善にも有効であったことを報告している。彼らの特徴は、bipolarで
焼灼切除することがコツとしている。すなわち組織に緊張を加えながらbipolar焼灼することに
より、健常子宮筋層は簡単に切断でき、一方、繊維化の強い子宮腺筋症はbipolar焼灼して
もなかなか切断できない。病巣近傍の健常筋層のbipolar焼灼・切断を繰り返すことより子宮
腺筋症病巣を完全に除去できると述べている。
西田らは、オネストメディカル社製の高周波切除器(下平高周波手術器 MGI-202)および
新たに試作されたリング導子(特殊導子タイプT)を用いた腺筋症核出術を報告している。この
高周波切除器は切除と凝固が同時に行える利点があり、リング導子大きさを自由に変える
ことができるために、指で筋層を搾るようにしながら、硬さで腺筋症部分を識別し、残存を確認
しながら切除できることがコツと述べている。
私どもは、腺筋症部分をなるべく多く切除する方法として、子宮を横H字状に切開する方法
を考案し、報告してきた。当初は、電気メス、クーパー、レーザーなどを用いて腺筋症部分の
切除を行ってきたが、高周波切除器を導入した以降は、出血量の減少もみられ、手術がより
行いやすくなった。
当科での腺筋症核出術の特徴としては、
@横H字状に切開し、観音開き状にするために、十分な腺筋症部分の摘出が可能となった。
A子宮奨膜を欠損することなく、修復できる。
B子宮内腔を開放することにより、開放した孔より指先で病巣部分を触診で確かめることが
できる。
C腺筋症部分の摘出には、下平式高周波切除器やサージトロンを使用することにより、熱を
指先で感じながら切除が可能となる。
D側方の閉鎖は、死腔を作らぬように順次、丁寧に縫合修復する必要があるが、症例によ
っては、生理的フイブリン糊での組織接着を試みることも可能である。
ところで、2005年9月の厚生労働省の先進医療専門家会議(座長:猿田享男教授)は、
保険診療と保険外の自由診療を併用し、患者負担を減らす混合診療を認める「必ずしも高度
ではない先進医療」の初の対象として、高周波切除器を用いた子宮腺筋症の切除術が選ば
れており、今後、普及する可能性がある。
長田らは、子宮筋フラップ法を考案し、15例の腺筋症に適応し、臨床症状が著明に改善
したことを報告している。彼らの術式のポイントは、
@胚の発生、児の発育に支障をきたさない。
A病巣の摘出は、摘出後の子宮修復が可能な程度まで徹底的に行う。
B摘出後の子宮創部は2〜3重の子宮筋フラップにより修復し、妊娠に耐えうる子宮壁を
形成する。
C術後合併症(筋層内血腫、縫合不全)の原因となる死腔を作らぬうに子宮壁形成術を
行う。
また、癒着防止対策も重要であると述べている。松浦らは、41例の子宮腺筋症に対する
子宮温存手術を施行し、21例(51.2%)が妊娠し、流産例は8例(38.1%)、生児獲得率
は、13例(61.9%)であったと述べている。彼らの手術のコツは、病巣のある子宮壁側を
親指で、反対側の正常筋層側を残り4指で子宮を鋏み込むようにし、健常側を圧迫しながら
病巣を薄く切除することで、最深部は子宮内膜に至らぬように細心の注意が必要であると述
べている。
以上のように、各報告者の術式のコツを述べていったが、子宮内腔に到達するかどうかに
関しては相違点も見られる。川村・印牧ら、松浦ら、西田らは、基本的には子宮内腔を開放
しないように努めているが、杉並は病巣を完全に切除することが重要で、ときとして子宮内膜
を含めて除去することが必要となり、これを躊躇して結果として子宮腺筋症組織を残してしまう
ようなことは決して好ましいものてはないと述べている。
長田らも内腔を開放し、内腔に指を挿入することにより、より多くの病巣を摘出できると述べ
ている。私どもも、当初は内腔に到達しないように努めてきたが、その後、十分な切除を行う
ためには、内腔面を開放る術式に改良していった。しかし、最近では、高周波切除器を用いた
場合には、子宮腔切開は必ず行っているわけではなく、硬さや色調をみて切除を加えており、
内膜に到達した場合は、将来の子宮内腔の変形や子宮内腔癒着を来たさないように丁寧に
修復すれば、問題ないと考えている。
ところで、限局的の子宮腺筋症に対しては、腹腔鏡下の腺筋症切除術も試みられている。
今後、腹腔鏡下手術手技が確立され、病巣がそれほど大きくない腺筋症に対しては、広まって
いく可能性もあろう。
おわりに
子宮腺筋症に対する温存手術は、妊孕能温存のための術式として、広く知れ渡った感がある。
さまざまな術式のコツが示されているが、症状改善が期待でき、不妊症や不育症では、比較的
良好な妊娠成績も報告されており、今後、本邦でもさらに普及していく可能性がある。
しかし、温存手術の適応、術前・術後の薬物療法、再発例の取り扱いなどに関しては、今後
ともさらに症例を収集し、検討される課題であろう。
(永井書店 産婦人科治療 2006年
VOL.92 No.3
特集 EBMに基づく子宮筋腫の診療
定価2,625円 294〜297から
抜粋し掲載しました。)