子宮腺筋症より発生したと
類推される子宮体癌の1例
早瀬良二氏※1 延本悦子氏※1 岸本桂子氏※2 倉本博行氏※1
徳毛敬三氏※1 山本 暖氏※1 園部 宏氏※3 西井 英氏※4
※1 Ryoji HAYASE, Etukio NOBUMOTO,Hiroyuki KURAMOTO,
Keizou OKUMO, Dan YAMAMOTO
国立病院機構福山医療センター産婦人科
※2 Yoshiko KISHIMOTO
岡山済生会総合病院産婦人科
※3 Hiroshi SONOBE
国立病院機構福山医療センター検査科
※4 Ei NISHII
西井ウンメンズクリニック
〒720-8520 福山市沖野上町4-14-17(福山医療センター)
子宮腺筋症から癌化したと考えられる類内膜腺癌の1例を報告する。症例は66歳の
主婦で性器出血が主訴であった。子宮内膜は平滑で萎縮しており腫瘍性病変は認められ
なかった。筋層内には異型腺管が増殖し類内腺癌を形成し子宮腺筋症組織も見られた。
洗浄細胞診は陽性で大網にも組織学的に癌病巣が見られた。骨盤内には子宮以外原発
巣は認めなかった。子宮内膜症とくに卵巣内膜症に比し子宮腺筋症からの癌化は少ない
とされているが閉経期以後も子宮腺筋症に対する注意は必要と考えられる。
はじめに
子宮内膜症とくに卵巣子宮内膜症からの癌化の報告は多いが、子宮腺筋症から癌化した
報告は比較的少ない。子宮腺筋症から癌化したと考えれる1例を経験したので若干の文献的
考察を加えて報告する。
症例
●患者 66歳 主婦
●主訴 不正性器出血
●家族歴 特記事項なし
●既往歴 20歳時,片側付属器摘出術
●月経歴 初経16歳,周期順調,閉経55歳
●妊娠分娩歴 1経妊1経産,早産歴あり
●現病歴
約2ヵ月前から性器出血があり近くの産婦人科を受診した。骨盤内腫瘤があり
子宮膣部の細胞診はクラスUで、腫瘍マーカーCA125が、4,165.7U/ml,CA19-9
が502.5Umlと異常に高く当院紹介となった。
●検査結果
初診時骨盤腔内に超手挙大の腫瘤があり内診上は子宮と思われた。子宮膣部に
異常所見は見られかった。経膣超音波検査では腫瘤は一様のsolid patternを呈して
いたが頸管から内膜腔への描出が十分にできなかった。ゾンデは頸管途中までしか
挿入できず内膜細胞診,内膜組織診はできなかった。頸管からの細胞診はクラスVで
AGUS(atypical glandular cells of undetermined significance)と判定された。腫瘍マー
カーはCEA4.8ng/ml,CA19-9 674.4/ml,CA125 3,600U/ml,LDH260IU/Lであった。
MRIでは腫瘍は子宮底部と連続しているように見え、腫瘍の内部信号はT2強調画像
で筋層よりもやや高い中等度信号を呈し、またT1強調画像で高信号を呈する領域を
認め出血と考えられた。MRIでは子宮平滑筋肉腫と診断された。
●開腹時所見
腹水はほとんどなし。子宮は超手挙大で回腸が子宮底と強く癒着していた。右付属器
は認めず、左卵巣は萎縮していた。大網が左壁側腹膜と中程度に癒着していた。播種
性病変は認めなかった。準広汎子宮全摘術(骨盤リンパ節郭清はせず)および大網の
一部を切除した。
●摘出物の肉眼所見
子宮重量は1,800gで内膜面は狭小化していたが平滑であった。筋層は一様に硬く
肥厚しており一部に出血を伴っていた。
●病理所見
内膜は大部分が萎縮像を示していた。筋層内に見られる大きな結節状の病巣は
異型腺管が蜜に増殖しており類内膜腺癌に近接してadenomyosis の像も見られる。
大網には転移が見られるが左付属器には転移はなかった。類内膜腺癌部分の免疫
染色てはCK7,CA19-9,CA125,MIB-1は陽性,CK20.CEAは陰性であった。
●経過
子宮筋層内より発生した子宮体癌で腹腔洗浄細胞診陽性,大網転移ありとのことで
術後TJ(Paclitaxel+Carboplatin)l)療法を6コース施行した。術後より約1年経過したが
現在のところ経過は順調である。
考察
本例は大網の一部にも転移巣が見られ厳密な意味ではColmanらの提唱する子宮腺筋症
より発生した癌の診断基準に抵触することがある。しかし骨盤内には原発巣と判断できる
箇所はなく大網の一部は癌は認めるものの顕微鏡的にわかる程度で組織内に散在してお
り転移巣と見なすのが自然である。子宮内膜組織は十二分に検索したがすべて萎縮内膜
であった。子宮筋層内に内膜腺から癌組織へと移行している箇所が見られ子宮腺筋症由来
の癌と類推される。子宮筋層から内膜組織へと浸潤が認められれば子宮腺筋症から発生した
癌とは言えず、そういう意味では本例は貴重な症例といえるだろう。
子宮内膜の異所性増殖という類似性からとくに卵巣子宮内膜症からの癌化が話題にな
っている。確かに文献上からも子宮外の内膜症組織からの癌化症例は子宮腺筋症からの
癌化症例とは発生機序,病因も異なるわけで子宮内膜の異所性増殖という類似性から
同一に癌化を論じるには無理がある。Rokitanskyは子宮腺筋症を”子宮筋への内膜腺の
侵襲”と報告し、Cullenも子宮内膜組織が筋層内に直接進入することで腺筋症が発生する
とした。浸潤能を有する子宮内膜が子宮筋層内で異所性増殖を引き起こした結果が子宮
腺筋症というわけである。Colmanらは任意に選んだ50例の子宮腺筋症例に1例の上皮
内癌,1例の前癌病変,1例の異型増殖,4例の類内膜腺癌が見られたと報告している。子
宮内膜の癌化への変化が子宮筋層内でも同様に観察されることは興味深い。ところで子宮
内膜症は比較的若年から発生するが子宮腺筋症は更年期女性において頻度が高い。小林
によれば卵巣子宮内膜症の癌化は更年期に多いと指摘している。
本例は66例であるが腺筋症からの癌化は高齢者が多いと報告されている。子宮内膜症
と子宮腺筋症の発生年齢の違いがそのままこの二つの病態からの癌化の差になっている
印象を受ける。若年で子宮腺筋症を発症している女性は更年期に子宮腺筋症を発症して
いる女性は閉経以後も経過観察が必要と考えられる。免疫染色の結果であるがCK7陽性,
CK20陰性は子宮内膜癌で見られるパターンであり、CA19-9,CA125陽性は採血結果とも
一致している。
おわりに
子宮腺筋症から類内膜腺癌を発生したと類推された66歳の1例を報告した。子宮腺筋症
は良性であるが、癌化をおこす可能性があり注意して経過を見る必要がある。
(金原出版株式会社『産婦人科の実際』
Vol.56 No.1 January,2007
特集 内視鏡手術の適応と要約
−治療におけるPros and Cons-
定価2.730円 P127〜P131を抜粋掲載
しました。)
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