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第二十二章 氷

 私は、暖かいお茶を飲むのが大好きだった。それが、いつからだろうか。お茶ではなく氷をかじりた
くなった。今から考えてみると、それは貧血がひどくなってきた30歳前後だと思う。冷たい水をいくら
飲んでも口の中が満足できないのだ。冷凍庫から氷の固まりをひとかけら取り出して、口の中に放り
投げる。奥歯で、ガリガリと氷をかじり、舌の上で溶かしていく。氷はただの水の固まりに過ぎないはず
なのに、これがとても美味しい。

 以前に、氷を食べる女の物語を読んだことがあった。異食症という病気で、それはひどい貧血から
起きるものだと書かれてあった。おそらく自分もひどい貧血なんだろうなぁとは想像がついた。しかし、
その頃は、たかが貧血くらいでという思いもあった。異食症や食道のあたりで物がつかえる感じ(これ
は、貧血により、食道の周囲の筋肉がやせ細って起きるようだ。)を自覚し、しかも、それがひどい貧血
から生じているものだと知りながら何もしなかったのは、貧血により考える力が失われていたことが
大きいように今は思う。

 何故だか分からないが、鉄欠乏性貧血が起き、その程度が進むと硬いものが食べたくなるらしい。
医学書には、飴玉、氷、土壁などが異食症で食べたくなるものとして登場をする。自助グループ仲間
である腺筋症の一人の場合は、飴玉だった。いつも飴玉を持ち歩いていたそうだ。彼女は、貧血に
なると硬いものが食べたくなるという話しを自助グループに参加して医師から聞いて、そう言えばと
思い至ったという。その後、全摘をして貧血から解放されたら、いつの間にか持ち歩いていた飴玉を
持ち歩かなくなっていたそうだ。

 私の場合はというと生理がある度に、せっせと鉄剤を飲んではいるが、一度、生理になると過多
月経が著しく、すぐに貧血に戻ってしまう。時には、貧血が改善されないうちにまた生理になって
しまう。正にザル状態になってしまう場合も多い。腺筋症と貧血の騙し合いだ。

 貧血になると何故、氷や飴玉が食べたくなるのか。貧血になると口腔内の温度が平常よりも高く
なるらしい。しかし、それを冷やすだけなら冷たいジュースでもいいはずだ。しかし、現実は冷たい
ジュースを飲んでも口の中の熱い感覚はなくならない。以前ほどではないが、まだ毎日のように氷
を食べたくなる。全摘をして慢性的な貧血から解放されれば、この奇妙な食習慣?も治るのだろうか。

 小部屋の皆さんの中にも、氷が美味しくて食べるのを辞められないという氷仲間はいらっしゃい
ませんか?

第二十三章 知識

  生理痛や過多月経がひどくなり、嫌々ながら産婦人科の門を叩いた人も多いだろう。そこで、
あなたの病気は、腺筋症ですと告げられた時、殆どの人は、「はっ?それって何?どういう病気なの
?」と首を傾げたことだろう。ましてや一般の人たちにとっては、腺筋症は、全く知られていない。子宮
筋腫なら、ああ子宮筋腫ね、と詳しいことを知らない人でも、その名前を知っている人は多いことだろう。
内膜症も以前は殆どの人が、その名前もその病気がどのようなものかも知らなかったが、環境ホルモ
ンとの関連性も取り出さされて、その知名度も上がってきたように思う。

 そこへ行くと子宮腺筋症は、さっぱりだ。筋腫について書かれて本の中には、筋腫の特別な形?と
して、こんなものもあるよとちょっとだけ申し訳程度に載っている。豆知識といった扱いだ。それでは、
内膜症について書かれた本の中では、どうかというとこちらも怪しい。少なくとも筋腫よりもずっと近い
関係にあるはずなのだが、これまた筋腫に書かれた本と同じような扱いしかされていない。少し詳しい
本になるとさすがに筋腫の本での豆知識扱いとは異なり、症例など挙げられていて、最後には経過観
察、そして最終的には全摘と書かれてある。出産後の女性に多いとも書かれている。

 内膜症は、若い人たちに多い病気で、これからの出産を控えた女性の間で問題となる場合が多い
病気だと言われている。内膜症による痛みと共に不妊問題も社会問題となるくらいに大きな問題だ。
それに比べて、腺筋症は、さほど若くない出産適齢期を過ぎたおばさんがかかる、あまり面白みのない
病気だと患者側からはともかく医師などの医療関係者からは考えられているようだ。

 病気として捉えた場合、腺筋症は内膜症に比べて面白みがなく、不妊治療などの治療のし甲斐が
薄い病気だと思われているようだ。内膜症のように腹腔鏡下手術で、病巣を焼灼できるという旨みも
ない。部分的に病巣が固まってある場合を除き、被膜に覆われていて正常組織と筋腫組織と明確に
区別ができない。内膜症と異なり、腹腔鏡という最先端の技術を使う機会もない。筋腫のように血管内
操作、つまりカテーテルを使っての塞栓術(UAE)を施しても再燃は必至だ。筋腫の場合は、筋腫を一
つの固まりとして容易に捉えられるので、悪性腫瘍つまりがんの治療方法は、即、そのまま良性腫瘍
である筋腫へも安全に応用活用ができる。それに比べて、腺筋症は、だ。

 これは、治療をする側の立場からの見方だ。それでは、患者の側から見てみよう。まず、聞きなれな
い、しかし、どうやら筋腫ではないが筋腫に似たような病気で腺筋症と言われる。これは、どうやら病
気の症状としては、筋腫よりも内膜症に近いようだ。きっと本屋の病気について書かれたコーナーへ
足を運べば、書かれているだろう。そして、本のタイトルで、子宮腺筋症が書かれている本を探す。
そして、運がよければ、そこで1冊手にすることができる。しかし、大抵の場合は、何も見つけられず
にガックリすることとなる。

 そして次に仕方がなく、筋腫に似たようなものだという医師の言葉から推察をして、子宮筋腫の本を
パラパラとめくり、その中に腺筋症の文字を見つける。半ページほどだろうか。とにかく子宮腺筋症に
関する知識がここでようやく得られることとなる。それではと子宮内膜症の本をめくってみる。すると
こちらは、筋腫の本よりは、少し多くのスペースが取られている。一ページから二ページくらいだろう。
それでも、載っていないよりはマシである。こんな調子で、女性の医学事典というような厚くて値段も
高そうな本をめくってみる。すると筋腫や内膜症とまた別な方面から詳しい知識が載っていたりする。

 しかし、まだ納得がいくようななるほど腺筋症とはこういう病気で、こういう治療法や薬があるのだ。
腺筋症の人は、腺筋症と診断されたならば、これからどのように生活していったらよいのかという指針
を示してくれるような本を見つけることはできない。ひどく寂しい気持ちに襲われる。腺筋症って、そん
なに患者がいない病気なのか?筋腫や内膜症の本の中で少しだけしか取り上げる価値のないような
ちゃちな病気なのかと落ち込むことになる。筋腫や内膜症の人たちが沢山いて、マスコミでは取り上げ
られる機会も多くなってきているというのに、腺筋症は何故なのだろうか?

 それではと本に載っていた筋腫や内膜症の自助グループに参加してみる。確かに、腺筋症の情報は
増える。今まで知る機会もなかった同じ腺筋症に悩む患者の生の声を聞くこともできる。でも、何かが
足りない。もっと知りたい。今は、インターネット時代だ。そうだ。インターネットなら、情報の最先端だ。
誰かが腺筋症についての詳しい情報を提供していることだろう。本にならなくてもインターネットではざ
らに存在するよね。そして、インターネットに接続をして、キーワードに腺筋症あるいは子宮腺筋症と入
れて検索をしてみる。凄い数のヒットだ。でも、ヒットしたホームページは、そのホームページのごく一部
だ。私は、全てが腺筋症のホームページを探しているのだ。そんなホームページは、ないのか?いや、
この世の中、アメリカにまで行かなくとも日本の中には、絶対にそういうサイトが一つや二つはあるはず
だ。第一、インターネットが一般的なものになってから、もう何年も経っているのだから。

 しかし、現実は、2000年12月末現在、私は私が求める腺筋症に関するホームページを見つけること
が出来なかった。それは、単に私の検索能力が足らなかっただけなのかも知れない。全て腺筋症の
ホームページがない。ないならば、作ればよい。知識は、作りながら少しずつ築いていけばいいのだ。
少なくとも、本屋で腺筋症の豆知識以上の情報は集めることができることだろう。まずは、腺筋症の患者
同士の交流が必要だ。それには、折角今あるインターネットを利用しない手はない。自助グループを
運営するのは一人では難しいことだが、ホームページならば、一人からでも始められる。

 こんな調子で私は、小部屋のホームページを始めた。医療機関にとっては、経過観察と全摘以外の
治療がない面白みのない腺筋症かも知れない。関心も興味も湧かない。こういう状況では、腺筋症に
関する医療の側の知識もさほど蓄積されないだろう。ごく一部の研究者だけが、知識を深めていくだけだ。
一般の医師が腺筋症に興味を持って、その動向に留意しないければ、腺筋症に関する医師の間の知
識も、本屋の実用書コーナーと同じレベルに留まり続けることだろう。医師と患者の知識の差は、筋腫
や内膜症の場合に比べて、差は少ないように思う。そして、活字での知識が例え医師の側が豊富で
あっても、患者の体験から得た知識ほど深いものではない。そういうことに留意して臨床医として働
いている医師はどのくらいいるのか疑問である。患者は、生きた臨床だ。その患者から学ぶことは沢
山あると思う。

 腺筋症は、患者数で言えば筋腫や内膜症と変わらないほどの人数がいる、と色々なところで書かれ
ているのを目にする。全国で沢山の患者いるが子宮筋腫や子宮内膜症の患者団体がある。しかし、
同じくすらの数の患者がいるハズの子宮腺筋症の患者団体はない。本当に、そんなに多くの患者は
いるのだろうか。それとも、いても腺筋症の患者は、性格的に大人しい人ばかりなのだろうか。筋腫と
内膜症と腺筋症の患者の病気に対する意識の差だろうか。アメリカや英国などでも、筋腫や内膜症の
自助グループはある。だが、腺筋症の自助グループはない。これらの国は、日本と異なり自助グループ
の歴史が長い国だ。それなのに、腺筋症の自助グループがない。とても不思議な感じがする。

第二十四章 講演会

 生まれて初めて女性の健康についての講演会へ足を運んだ。それまでは、新聞のセミナーや講演
会のお知らせ欄で、様々な記事を目にしても行こうという気持ちが起きなかった。筋腫や内膜症に関
する講演会はあっても、腺筋症に関する講演会がなかったせいもあるだろう。とにかくわざわざ札幌ま
でバスを乗り継いで往復最低でも3時間もかけて行くほどのことはないだろうと思っていた。

 それが何故だか今度は行ってみようと思った。場所が札幌以外のところからやって来る人間にとって
は、アクセスしやすい場所だったこと、テーマが思春期の性、子宮内膜症の診断と治療、更年期外来の
三テーマだったからだったと思う。講演会は、北海道に医学部のある3つの大学から、それぞれのテー
マについて、一人ずつ講師が登場し、最後には、30分ほどの質疑応答があるはずだった。だが、実際
には、最初のテーマの講師、女医であったが、彼女の講演時間が長引き、結果として、ようやく10分以
内の質問時間が許されただけだった。女性のための市民講座だったから、講演が主で、質問する時間
を作る必要性もあまり感じていなかったようだ。

 私は、講演を聞きながら、絶対に最後に質問をしてやると決意していた。何故、内膜症の講演会はあ
るのに、子宮腺筋症をテーマにした、こうしたような講演会などが開かれないのか。子宮腺筋症は、そ
んなに珍しい病気なのか。子宮動脈塞栓術についてはどう思うか?免疫能力との関係から、抗ロイコ
トリエン受容体拮抗薬が、内膜症には効果があり、癒着や内膜症の病巣が剥がれやすく手術がしやす
くなるが、腺筋症にはあまり効果が見られないと聞いたが、それは本当か。またそれは何故か。アロマ
ターゼ阻害剤の効果については、どう考えるか。そのほか、色々と聞きたいことは山ほどあった。

 抗ロイコトリエン受容体拮抗薬とアロマターゼ阻害剤については、専門的なことなのでと司会者に断
られた。また、子宮腺筋症については、内膜症に比べると珍しい病気だという回答を得た。また、子宮
動脈塞栓術に関しては、保険外だし、妊孕性が確保できない治療方法だ。私は、子宮腺筋症の患者
さんには、妊娠を望んでいる場合は、核出手術をしてあげています、と答えた。

 内膜症の診断と治療についての講演で来ているのに、子宮腺筋症について何故そんなに沢山の質
問に答えないといけないのかと面白くない表情だった。講演の中でも、ちらりと腺筋症の文字がスライド
に映し出されたが、「内膜症とは関係がない。」と一度言い、そのあとに、「関係がないわけじゃないです
ね。内膜症に似た病気です。」と言い直していた。その時から、この人は、あまり腺筋症については関心
を持ってはいないと思った。

 質問をしながら、今までの講演会に対する不満、つまり、講演会では、いつも筋腫や内膜症ばかりで
腺筋症が取り上げられることがないことに対する不満が渦巻いた。その上に、聴講していたテーマに
ついての今まで蓄えられていた知識と疑問などが感情と一緒になり、それが口から言葉となって出る際
には、早口になっていた。もしも、腺筋症に関して質問する講師が感じがいい人だったら、冗談の一つや
二つも言えるだが、と喋りながら考えていた。

 講演会を終えて、今日はあまりいいこともなかったからと寄り道することもなく、ずくに帰宅をした。
家に戻り、ほっと一息をついたあと、改めて今日の講演会について考えたみた。講師は、内膜症に比べて
腺筋症は、珍しい病気だと言っていた。しかし、それは違う。画像診断をする放射線科医が医学雑誌で書
いていると通り、性成熟女性の子宮に関する病気診断の上では、20%〜30%の割合で見られる、ごく
ありふれた病態だ。しかし、妊孕性第一の内膜症中心に治療を行っている彼にとっては、腺筋症は珍しい
ものなのだろう。むきになって言い返してきた子宮動脈塞栓術は、保険外で妊娠を希望するものには実
施できないという言葉に、それは集約されているように思った。彼にとっては、内膜症は痛みと不妊が問
題だと言いつつ、妊娠させることに情熱を注いでいるのだろう。また、子宮動脈塞栓術は、彼の所属する
産婦人科ではなく、放射線科で行われているという不快な感情も伴っていたのだろう。

 それにしても、一番驚いたのは、腺筋症の患者が妊娠を望んでいる場合は、核出手術をしてあげてい
るという言葉だった。〜してあげている、という言葉は、ペットに餌をあげるなど明らかに自分よりも下の
存在に施しをするという意味を持つ。かわいそうだから、私は、優しい気持ちで核出手術をしてやってい
るのだという風に聞こえた。彼の態度に、女性蔑視を感じてしまった。大学教授である司会者は、講師
とは医師仲間で交流もあるのだろう。講師がいかに優秀か、そしてアメリカのどこそこの大学の医学部
に留学をしていると褒め称えていた。講演会に来た患者の一人である私に対して、その質問は専門的な
ので答えられないと講師の回答をさえぎった時の冷たさとは大いに異なる対応だった。患者に厳しく同
僚には優しくが、医師の世界では当たり前なのだろうか。

 子宮腺筋症の診断と治療について、患者が講師になり、聴講者が医師だという講演会を是非開いて
みたいなと思う。そして、医師からの質問に答えてみたい。講演会に行き、私は医師の講演を聞きた
いのではなく、医師に患者の率直な気持ちを医療について色々と話してみたいのだと気がついた。

第二十五章 うつ

 筋腫や内膜症や腺筋症を患う女性たちには、薬物療法ということで、スプレキュア、ナサニール、
リュープリンなどの女性ホルモン剤が投与されることが多い。その副作用は、更年期様障害が起きる
と言われている。一時的に過剰な卵巣刺激による症状の悪化やのぼせと冷え、頭痛、筋肉のひきつ
れなど肉体的な多彩な症状が起きたりする。そんな肉体的な症状に比較して、問題とされずに軽く片
付けられがちなのが、精神的な落ち込みであるうつ状態だ。

 このうつ状態だが、ホルモン剤の添付文書によれば、5%未満の頻度で起こり、それが診られた場
合は、重篤な副作用として取り扱われ、ただちに服用を中止することとなっている。副作用について
は、5%以上か5%未満との二区分に分かれている。この添付書類を信じるとするならば、うつ状態は、
ごく稀にしか起きない副作用ということになるだろう。しかし、実際は、殆どの人が体験する副作用だと
思う。このうつ状態が重篤な副作用であり、ホルモン剤を即中止する必要があるとなれば、筋腫や内
膜症や腺筋症に対するホルモン剤治療は成立しなくなることだろう。ホルモン剤を使っているから、
気分が暗くなるのだと分かっているから使っている半年間の間、何とか我慢をすることができるだと思う。

 地元の自助グループの会合で、内膜症の女性が言っていた。彼女は、20代で、卵巣チョコレート嚢腫
で今年1月に腹腔鏡下手術で右の卵巣の核出手術を受けたのだが、リュープリンを2クール行っている。
最初のリュープリンでは、腫瘍マーカーであるCA125の数値が下がったが、二度目のリュープリンでは、
卵巣の縮小はみられたが、CA125の数値は、下がらなかった。それで、腹腔鏡下手術を受けたそうだ。
その彼女が言うには、リュープリン自体を受けている時は、軽いのぼせや膣の乾燥感などはあったが、
さほどの強い副作用はなかったが、うつの状態は服用中はずっと続いたという。そして、リュープリンを
止めたあとでも、時々、フラッシュバックが起きるそうだ。まるで、覚せい剤のようではないか。

 また、49歳の筋層内筋腫がある女性は、ひどい貧血と過多月経の改善のために、やはり二度ほど
こちらは、スプレキュアを服用したが、こちらは深刻なうつ状態に陥ったという。家から出ることができ
ない状態になり、夫が心配をして病院へ連れて行ったくらいだ。しかし、そのことを通院中の産婦人科
医に告げるとそれと薬との関連性は何もないと言われたそうだ。彼女は、スプレキュアをする前は、全
くうつの状態になることはなかったそうだ。それなのに、彼女は、スプレキュアを止めた後もなお、いま
だに暗い気持ちになる日が続いているという。この世の中は、もう終わりだという気持ちになってしま
うのだという。

 私も、スプレキュアをしている間は、うつ状態に悩まされていた。様々な体に起こる不快な症状の
ほかに、毎日の気分の基本が、このうつ状態だった。外の世界は、北海道の短い夏そのもので、空
も申し訳がないほどの抜けるような青空だった。それなのに、私の心の中には、秋風がひゅーひゅー
吹いていた。何を考えるにしても後ろ向きになり、何か悪いことがあるとひどく落ち込んだりもした。
しかし、これは本当の私じゃない。ホルモン剤がこんな気分にさせているのだと思うことになり、何
とか心のバランスを取っていた。そして、女性ホルモンの欠乏がもたらす症状に唖然としていた。
女性ホルモンは、若さと美だけではなく、人の心までも奪ってしまうものらしい。

 産婦人科医は、ホルモン剤を投与する場合は、のぼせや頭痛などの代表的に副作用だけではなく、
心のケアに努めて欲しいものだ。そして、うつ状態についても、私は精神科医ではないからと言わずに
患者に対して、訳の分からない不安な気持ちは、薬からきいているものなのでと安心させて頂きたい
と思う。腺筋症で全摘手術をする前は、とても熱心に声をかけて相談にも乗ってくれたのに、全摘後に
病院へ行き、体や心の不安を訴えるともう自分とあなたは関係はありません。精神科へ行きなさい。
なんていう対応は、改めて欲しい。そう思う。

第二十六章 知名度

 がんや脳梗塞や心筋梗塞と聞けば、殆どの人が、その病気の大方のイメージを抱くことができる。
それに比べると婦人病の中でも、昔からよく知られている子宮筋腫にしても、そのイメージはおぼろげ
だ。子宮に出来た腫れ物で、命には関わらない病気だという程度ではないだろうか。ましてや子宮内膜
症に至っては、その名前は筋腫に比べると知っている人は少ないのではないだろうか。また、知っている
人でも、若い女性がなる病気で、なると子供が出来にくいとか物凄く痛い生理痛があるらしいというくらい
の知識だろう。

 子宮腺筋症ともなるとその病気がどうのこうのというよりも、その名前さえも殆ど世の中の人たちには
知られてはいない。これだけ多くの数の女性たちが悩まされている病気にも関わらず、まるでこの世に
存在していないかのようだ。良性疾患だから、女性しか罹らない病気だから、生理という期間にだけ症状
が強くなるとが多く、他人の目には、その苦しさが映らないから。沢山の理由はあるのだろうけれど、人々
が、腺筋症という病気に無関心でいられるのは、腺筋症という病気を知らないからだと思う。

 人間、知らなければ、何も行動することはできない。内膜症は、シンガーソングライターの平松愛理さん
の病名公表とテレビや本などを通じての啓蒙活動によって、その知名度と一般人に対する認知度も高ま
った。ただ、マスコミが平松さんの病気を取り上げる時、内膜症という病気について公正な報道がなされ
ているかというと必ずしもそうではないのが残念だ。どうしても平松愛理さんという一人の歌手の生き方
を歌と愛と結婚と妊娠と出産という出来事に焦点を当てて、一つの理想的なドラマとして取り上げることが
多い。そして、病気は何でも早期発見と早期治療を行うことが大切だ。きちんと治療をしないでいるといざ
という時に、不妊で苦しんだり、ひどい痛みで取り返しのつかない事態にまで病状が進んでしまうことが
ある。だから、早めに病院へ産婦人科へ足を運びましょう。そんな流れで、番組は締めくくられ、内膜症
という病気そのものについての詳しい解説は、あまりなされてはいない。

 これが、がんなどの生活習慣病ともなるとその病気一つだけで、番組として成り立つ。一般に向けられ
る情報そのものも膨大だ。それに比較すると腺筋症の情報を集めるのは、時間も手間もかかる仕事だ。
マスコミの側にも、女性の病気について、もっと情報を広めようという気持ちも持ち合わせてはいない
ようだ。国は、少子化問題だと言いながら、つい最近まで、不妊治療について、あまり関心を抱いては
いなかった。産婦人科医も国も、女性の結婚や晩婚化や妊孕性には関心を持つことはあっても、女性
がかかる良性の病気については、興味も関心も薄い。

 地道にでも、子宮腺筋症という病気が、そう少なくない数の女性を苦しめ続けているということや腺筋症
という名前の病気が、いかなるものか、そして女性の生活の質をどれほど下げているかを知ってもらうよう
に努力しなければならないと思う。世界的なスーパースターが、世界の人々に向けて、「私は、今、子宮
腺筋症で苦しんだいます。」と一言叫べば、子宮腺筋症の知名度も瞬く間に高まることだろう。マスコミにも
大きく取り上げられて、腺筋症を知る人たちも飛躍的に伸びることだろう。しかし、その確率は、残念ながら
とても低い。

 アメリカにも英国にもそしてもちろん日本にも、子宮腺筋症の患者を対称とした団体はない。患者自身の
意識も、もっと高まらなければいけないと思う。何もしないで、ただ不満だけ言っていても、世の中は何も
変わりはしない。政治と同じで、自分一人のちっぽけな意見や働きだけで、何も変わらないのだと諦めて
しまってはいけないと思う。ほんの小さな行動とささやかな思いから、大きな物事が実現することはあると
思う。私の病名は、子宮腺筋症ですと言えば、すぐに通じる日本にしていきたいと考えている。

第二十七章 白い服

 白い服に、憧れる。私が白い服を着れなくなったのは、いつのことだっただろうか。生理が始まって間もなく
のことだったと思う。初経が来てまだ何度か目の生理の時、白いトレパンを穿いていて、そのトレパンに経血
が滲み出てきてしまったことがある。それ以来、白い服、特に下に身に付けるものは、避けるようになった。
その後、生理痛はひどくなる一方で、生理痛の激しさと共に出血量もどんどん増えていった。だから、未だに
白い服は、高嶺の花のままだ。いつ何時、生理に襲われるかという不安が常にある。

 だから、女優さんやモデルさんが、白い服を上手に着こなしているのを見て、何とも溜息が出てしまう。
新聞を読んでいたら、中学一年の冬に生理が始まり、52歳の夏に生理が終わったという53歳の女性が
匿名で投稿していた。これからは、白いパンツ(ズボンのことだと思います)を穿くなど、思い切っておしゃれ
ができると書いてあった。この女性は、子宮の病気もせず、三人の子供を無事出産し、育て上げたそうだ。
生理のない今、気分は、清流と同じで澱みもなく、サラサラと流れゆく乙女の心境だそうだ。生理がなくなる
と同時に、男と女の生々しい欲望などは消えてなくなってしまうものなのだろうか。

 それにしても、毎月、過多月経に悩まされている同じ腺筋症仲間も同じようなことを言っている。彼女は、
私より一つ年上の47歳だが、10歳は若く見えるらしい。結婚をして、子供は望んではいるのだが、残念
ながら、その願いは叶ってはいない。その分、おしゃれにはお金を使い、いつまでも若く美しくいるために
努力をしている。その点、無頓着な私は、いつも彼女の努力に感心してしまう。そんなおしゃれにお金をかけ
る彼女だが、白い服、特に下の方の服には、白いものはないという。やはり、いつ血がもれるかという心配
があり、買うことをためらってしまうそうだ。

 生理がある年齢で、白い服を着られる女性に憧れる。生理は、それこそ女性にとっては、生理現象の
一つに過ぎないかも知れないが、まことに厄介な生理現象だ。男の人に、毎月、こんな面倒な生理現象
が女性とは別の形で、もしあったとしたら、悲鳴を上げることだろう。いや、その方がお互いの性について
思いやりが出来るようになり、もっと平等な社会となっていたのかも知れない。

 私も今年で47歳。白い服を好きなだけ着られる年に段段と近づいてきた。それが、自然とそうなるか。
あるいは、痛みと出血に耐えられずに、自らピリオドを打つことになるのか。それはまだ分からない。

第二十八章 いいこと

 この間の講演会で、もしたっぷりとした時間があり、もっと講師が気さくな方だったら、是非、聞いてみたい
質問があった。それは、子宮腺筋症になって何かいいことはありませんか?つまり、腺筋症の特典などは
ないのかと一度聞いてみたいと思っている。腺筋症は、病気なんだから、そんなものは何もないと思うかも
知れない。だが、どんな病気にも一つや二つは良いこともあるのではないか。そんな気持ちがある。

 第一、世の中、全て100%が良いことで、100%悪いことだけしかない。そんなことはないのではないか
と思うのだ。例えば、腺筋症だらけの子宮は、生理のある期間は、痛みと出血の多い悩み多き臓器かも知
れない。でも、一度、閉経してしまったら、どうだろうか?正常な働きしか持たない子宮は、ホルモンの分泌
低下後、速やかに萎縮し始め、更年期障害の程度も強く出るかも知れない。だが、腺筋症の病巣だらけの
子宮は、エストロゲンとプロゲステロンに敏感な受容体を持っていて、僅かな女性ホルモンでも有効に活用
することができる。だから、閉経後も、腺筋症ではない人たちに比べると更年期後の女性ホルモンの分泌
低下は、緩やかになり、その影響も少ないのではないだろうか。

 長年、腺筋症で苦しんだ分、文字通り人の痛みが良く分かるので、腺筋症の人は、心優しい人が多い
とかもありそうないいところだ。若いうちに、自分の痛みを知り、そして他人の痛みにも気が付く人間的な
深みのある生活を送ってきたことは、その後の後半生にも必ず体験としての利点があるのではないだろう
か。他の病気に襲われた時、それまで闘病したことがない人たちに比べて、うまく病気と付き合っていく
ことができるのではないだろうか。最近は、腺筋症になって、いいことについて目を向けるようになってきた。

 勿論、腺筋症は、いいことよりも悪いことの方が断然多い。腺筋症が魔法で消えてなくなり、正常の
子宮に戻すことができるのならば、何をおいても是非、治してもらおうとするだろう。でも、私の腺筋症
は、自然には消えてなくなってはくれそうもない。だから、最近は、どうして腺筋症はこんなに苦しいの
たろうかと悩むことよりも、腺筋症にだって、こんなにいいことがあるぞと色々と利点について考えたり
する。何故なら、その方がずっと楽しいからだ。

 腺筋症になり、仲間と知り合いたくて、パソコンを買ってインターネットを始めて、とうとうホームページ
まで開いて、何故か4年も過ぎてしまった。色々とトラブルにも見舞われて、嫌がらせにもあった。でも、
全国の同じ腺筋症の仲間と知り合い、話しをしてお互いに人間的に成長することができたと思う。これ
も、腺筋症だったからできたことだ。そういう意味で、腺筋症に感謝だ。

 腺筋症になって、いいこと、どなたか他にも何か知りませんか?

第二十九章 無神経

 内膜症や腺筋症あるいは筋腫で、産婦人科にかかると医者は、まず年齢を見て一言言う。「その年
まで、あんた子供を産んでいないからそんなことになるんだよ。」と大きな筋腫が見つかったアナウン
サーは言われたそうだ。40歳を過ぎてしまったら、女性の子宮は存在価値がなくなると考えている
医者が多いようだ。40歳前であれば、不思議なことに、それとも現代社会の結婚制度が緩やかにな
ってきたせいなのか、結婚していようがいまいが、早く子供を産めと言われることも多い。

 ある産婦人科医、この人は、女性だったが、内膜症の場合に、子供を産めば病気の進行が遅くなった
り、一時的に完治したかのような状態になったりすることについては、説明しなくてはならない、と話して
いた。産婦人科医にとって、日常で診ている女性患者の人生観や結婚観には、興味も関心も抱いては
いないと思う。しかし、自分の職業領域に関わる妊娠や出産に関しては、その患者が持つ病気そのもの
よりも、まず優先して考えることらしい。産婦人科へ行って、医者の言葉に反発を覚えるのは、患者で
ある私のことよりも、自分の職業上の知識から患者を捉えて、こうあるべきだという態度だからだと思う。
 自分が逆の立場になってみれば、今、取った自分の態度がいかに理不尽なものなのかが見えてくる
と思う。しかし、その機会は、滅多にないだろう。

 総合病院の科にしても、産科、婦人科、小児科、不妊外来と別の診察室を設けているところでも、
患者の気持ちに配慮するところは少ない。医者や病院の都合が良いということで、まとめて産科、婦人科、
不妊症外来、小児科の診察室が並んでいる。そのことに、病院側は、何とも感じていないのだろうか。
患者の立場からすると、産科と小児科は、隣の診察室であってもいいが、産科と婦人科は一緒にして
欲しくはない。産科や小児科と不妊症外来は近くにして欲しくはない。そう思う人が多いと思う。患者
の側のささやかな抵抗としては、産科と婦人科が分離された病院で診察を受けることくらいだ。

 こんな無神経なことは、何も今更、声を荒げなくても、何十年もの間、ずっと続いている。患者の声が
小さいとは言え、産婦人科医が気が付かないわけがない。しかし、産科と婦人科が別れることもなく、
流産して泣いている人の隣に子供が産まれて家族と共に喜んでいる人がいたり、子宮がんで手術を
したばかりの人がいたりする。患者様と呼び、患者は、病院の主役です、みたいな口先だけは立派な
ことを唱えてはいるが、現状を見てみると、その無神経さに呆れてしまう。

 医者は、患者を診ていればいい。病気の治療に専念すればいい。そう思っているのかも知れない。
しかし、ヒポクラテスやウイリアム・オスラーが言っているように、患者の体だけではなく、心をも診なけ
れば、病気は治らない。患者になることは出来ないけれど、共感をし、患者を思いやる心こそが医療
の原点ではないだろうか。病気は、体と心の両面から治すものだ。医者には、そのことを考えて欲しい。

第三十章 子供

 腺筋症という病気にかかると、自然と妊娠や出産ということを考える機会が増える。それは、筋腫や
内膜症と異なり、とりあえずに一時的な治療をして様子を見るということが物理的にも精神的にも難しい
からだと思う。筋腫の場合は、全摘手術をする前に、核出手術をしてみる。内膜症の場合なら、腹腔鏡
下手術で、病巣を焼灼してみる。そういう前段階がある。精神的にも病気について一時保留ができる。
筋腫であれば、何年間かは自分が病気であることを忘れる時間も持てる。昔は、全摘しかないと言われ
た多発性筋腫でも、子宮動脈塞栓術、UAEを行えば、恒久的な筋腫の縮小あるは消滅さえも期待でき
る。内膜症にしても、病巣を焼くことにより、数年間は、痛みから解放される時間も持てる。

 しかし、腺筋症の場合は、特別の場合を除いて、核出手術での成果は期待できない。例え、できても
その効果は、筋腫に比べると大きくはなく、再燃率は高い。鎮痛剤を飲んで経過観察をするか、痛みと
過多月経を抑えるための一時凌ぎのホルモン剤治療で、あとは悪化して症状が進んだら、全摘するしか
ない。腺筋症は、全摘するしか有効な治療方法はないのだ。そう考えて、積極的に治療しない医者が
多い。筋腫や内膜症に比べて、腺筋症は地味な治療しがいのない病気なのかも知れない。

 女優の洞口依子さんは、39歳になる直前に、何ヶ月も続いた不正出血が気になり、産婦人科の門を
叩いたという。結果は、子宮頸がんで、かなり進行していて、子宮は勿論、卵巣も取ったという。それだけ
でも、ショックなのに、リンパ節にも二個の転移があり、抗がん剤治療もしなければならなかったそうだ。
数年前に、結婚をしていて、自分は健康だと信じていたので、子供はいつでも自分が好きな時に産める。
今は、40歳を過ぎても医学が進歩しているので、大丈夫と考えていたそうだ。子供を産むなんて、たいし
たことはないと軽く考えていたそうだ。それが、子宮頸がんで、子供は産めないと知った時は、物凄い
ショックだったそうだ。病気と闘うだけでも大変なことなのに、その上に、自分の子供が持てなくなるという
寂しさや無念さが加わってくるのだから、その心情はいかばかりだっただろうか。結婚したこともない私で
はあるが、洞口さんの話しをテレビで見て聞いているだけで胸が詰まった。

 洞口さんのようには、まだ運命の人と呼べるような男性とは出会ってはいない。運命の人だと思える人
がいたら、結婚をし、その人との間に出来た子供を産んでみたいと思う。46歳という年齢では、それも
なかなか難しいことではあるけれど、私の中の女性性は、まだその望みを捨てていないようだ。とは言って
も、それほど積極的なものではない。人間は、追い詰められないと本音に気が付かないものらしい。私も、
いよいよ最終コーナーを回ってゴールが近づいてきて、ようやくそのことに気が付いた。こんなことは、結婚
適齢期と呼ばれる時期に気が付いていないといけないことだ。その点で、私は、随分と知恵が遅れている
なと思う。

 子供・・・自分の遺伝子はどうかと思うけれど、好きな相手の遺伝子が受け継がれていると思うと幸せ
な気持ちになるのかも知れないなぁ。

第三十一章 骨

 昔は、おばあさん、おじいさんになると自然と腰が曲がるものだと思い込んでいた。食事が悪い。労働が
きつい。農作業により腰に負担がかかるなど様々な要因があり、50歳を過ぎると多かれ少なかれ腰が
曲がっていた。おくやみ欄にだって、50歳も後半は珍しくはなく、60歳代ともなるとごく普通だった。80
歳になっていれば、長生きだなぁと思った。90歳代は、めったにいなかった。昭和40年の初め頃は、
こんな調子だった。

 最近は、腰や背中が曲がるのは、老化が主因ではなく、骨粗鬆症というれっきとした病気だと分かり、
若いうちから、あるいは病気だと判明したあとでも、治療は可能だ。骨量と言えば、腺筋症に悩む女性
が心配するのは、スプレキュア、ナサニール、リュープリン、ゴセレリンなどの女性ホルモンを抑制する
作用のある薬による副作用だ。骨量低下、大体のところ、1〜2%、多くても5%というところで、服用
中止後は、速やかに回復する。そういうことになっているかのように薬の添付文書には書かれている。
つまり、薬の服用期間は、骨量低下が見られるが、それはその期間中のことだけであり、薬を中止す
れば、徐々に回復をし、以前の状態に戻る。骨量低下のままということはない。但し、半年間服用後、
中止すればの話しだ。

 何だかそれだけでも信用できない。ましてや、半年間服用した後、また半年間ほどの期間を置けば、
連続して使用することも可能だという考え方は、どうかと思う。半年間かけて減った骨量やほかの副作
用も、それと同じ時間をかければ、元通りに回復すると単純には考えられない。回復をするというより
は、回復していないと考える方が順当ではないだろうか。健康を崩すのに、さほどの時間はかからない
が、健康を取り戻すのには、その何倍、時には、何十倍もの時間を要する。回復しない場合も多々ある。

 そもそもスブレキュアなどのホルモン剤が、骨量低下を招き、それは、検査してみないと分からない。
重大な副作用の一つと言われながら、産婦人科医の扱いは納得がいかないものだ。第一、骨量低下
、更年期障害のような副作用は起きるとの説明は殆どされるのに、事前にその人の骨量を検査する
ことが殆ど行われていない。だから、ホルモン治療後に、どのくらいの骨量の低下があったのか判断
することができない。

 ホルモン剤による骨量低下には、個人差があり、その減少の程度やホルモン治療中止後の回復
の程度、その後の治療経過などによって、さまざまな状態となる。筋腫の場合は、あまりないだろう
が、腺筋症や内膜症の場合は、日頃の痛みの強さから逃れるために、何度もホルモン治療を繰り
返すことがあるだろう。しかし、そういう人たちの骨量の検査がきちんとなされているかどうかは疑問
だ。一時的に腺筋症や内膜症の病気から逃れられた。更年期障害のような症状以外は特別にこれ
といった症状はない。ホルモン剤だって、きちんと休薬期間を守っていれば大丈夫。その間の期間
は、病気のつらさから解放されて生活の質も向上したと思う人もいるだろう。

 しかし、長い目で見てみてみると、ホルモン剤による骨量低下は、閉経に向けて進行中の一過程
だったとなるかも知れない。骨は、40歳直前までは、それほど低下しないそうだ。だから、ホルモン剤
であるゴナドトロピンアナログのような骨量低下の副作用があるものは、40歳までしか使わないのが
原則になっている。しかし、実際は、閉経までの追い込み療法をはじめとして、手術を回避するため
、あるいは手術前に病巣を小さくする目的で、40歳以上であっても使われている。閉経への追い込み
療法の場合は、ただでさえ骨量が減る年齢と重なっている中、ホルモン剤を何クールも続けることに
なる。そして閉経を迎えた場合、その人の体のホルモンバランスはどうなるのだろうか。そして減り
続けている骨量は一体どうなってしまうのだろうか。

 骨粗鬆症による骨折が寝たきりの原因の多くを占めている。手術をしたくない私のような人間に
とっては、ホルモン剤のような薬は、救世主でもある。しかし、薬は文字通り、毒にも薬にもなる。
そのことをいつも頭の中に入れておかなければならないと思う。自然治癒する画期的な治療が
発見されて、注射一本あるいは、今のホルモン剤治療のように、たとえ半年間がかかっても、治る
のなら、一度で済むことだから、多少、副作用があっても我慢ができる。しかし、今のホルモン治療
は、対処療法でしかない。

 40歳を過ぎたら、骨を減らさずに、骨を維持、更には骨量を増やすために、運動と食事に気をつけ
ていこうと思っている。骨というのは、誠に敏感なものだ。宇宙飛行士の例でも有名なように、使わな
くなったら、すぐに減り始める。踵のところにセンサーがあり、ここに加重がかからないと骨は減って
しまうそうだ。また、骨によい食べ物は、牛乳などの動物性のカルシウムが植物性のカルシウムより
も効率がよい。運動と食べ物を比べてみると運動を丸めて薬にして飲んだもらいたいくらいに、運動
することが骨量を増やすことにつながるようだ。骨粗鬆症の治療薬として使われている薬は、うなぎ
やさけの骨から取られたホルモンだ。うなぎとさけに共通しているのは、どちらも淡水と海水を行き来
していることだ。つまり、塩分濃度の差を調節する機能が体に備わっていることだ。魚を食べるのなら、
うなぎやさけがよいようだ。春になって雪も解けてきたので、運動時間を増やそうと思う。というより、
日頃からまめに体を動かすことが大切ですね。人間の骨は、207本+α。一本、一本、大切にしま
しょう。

第三十二章 酸素

 その昔、この地球上には、今のような量の酸素は存在しなかった。二酸化炭素や窒素などが大気
にふんだんにあり、それを利用して生物は生きていた。そして、やがて、二酸化炭素を光合成により、
酸素と水に分解をする植物が誕生してから、植物の出す廃棄物である酸素濃度が増し、それを様々な
動物が利用するようになった。無酸素状態よりも酸素を利用する方が生み出すエネルギーも倍加した。
今の地球上の動植物は、酸素を大いに利用して生きている。

 しかし、新生児に、あまりに濃度の高い酸素を与えつづけると網膜症などの弊害も出てくる。がん
などの生活習慣病も活性酸素が原因であるといわれている。酸素は、多すぎてもいけないのだ。
さて、この酸素を取り込むことがてきなくなるのが、貧血である。腺筋症の場合は、鉄欠乏性貧血
という出血により、鉄が不足してしまい、鉄を核として作られるヘモグロビンを含む赤血球を作る
ことができずに、体中が酸素不足に陥ってしまう。

 この酸素不足は、体の色々なところに影響を及ぼす。腺筋症では、痛みが前面に出て、貧血
によるだるさや息切れなどは軽く見がちである。しかも、慢性的な貧血は、知らない間に少しずつ
進行していくので、自覚症状があまりない。しかし、確実に体の方はダメージを受けるようだ。
まず、頭の回転が鈍くなる。日常的な行動はできるのだが、新しい事柄に対処ができない。対処
しようと考えると酸素不足になるためか頭に霞がかかったような状態になる。また、そうした状態
にありながら、事の重大さに気が付かない。いや、気が付けないようだ。まるでロボトミー状態の
ようになってしまう。貧血がひどい時は、私もそんな状態が続いた。

 肌の色が灰色というよりも黄色ぽくなり、なによりもの変化は、髪だ。髪は、女の命だと言われる
くらいに女性にとっては、髪の毛の変化は気になるものだ。私は、貧血がまだ軽い時は、しっかりと
した黒々した太い髪の毛をしていたものだ。しかし、30歳近く、27歳頃から少しずつ、髪の毛が細く
なってきた。年のせいかなと思ったりしたのだが、それよりも貧血により、酸素不足になっていたせ
いだと今は思う。そして、ますます腺筋症での過多月経がひどくなってくるにつれて、まず髪がぱさつ
いてきた。そして、そのうちに、白髪が出てきた。枝毛など見たこともなかったのに、かなりの数の
枝毛が出てきた。最後には、脱毛だ。酸素不足により、体は女の命である髪よりも体内臓器を優先
したようだ。

 髪の毛は、中国では血餘といわれていて、血が余ってできると考えられているようだ。貧血が進み、
酸素不足に陥るとメラニン色素を作り出す酵素を作りだすことができずに白髪が増えてくるようだ。
また、脳みそなどの内部だけでなく、その外である頭の表皮の血の巡りも悪くなり、髪の毛も不健康
になって伸びない、太くなれない、艶がでないとなるのだろう。直毛だったのに、カーブがかかりやすく
なったのも、枝毛や栄養不足によるものだと思う。腺筋症の診断後は、鉄剤を飲んで慢性的にひどい
貧血状態に陥ることがないように気を付けてはいるが、腺筋症相手では、なかなかうまくコントロール
ができていない。

 人間の老化は、酸化、つまり錆びることになり起きる。だから、ビタミンCなどの還元物質を取り込む
ことが大切だ。それなのに、猫は、体内でビタミンCが合成できるのに、何故か人間とサルは、合成
するとこができない。だから、一層、ビタミンCなど人間が自分の体では合成できない種類のミネラル
は、心がけて摂取しないといけない。特にたばこを吸う人や強いストレスに晒される時には、ビタミン
Cは、何倍も必要となる。妊娠の時に、みかんなどの柑橘系のものが食べたくなるのは、自然なこと
だと思う。具合の悪い時のオレンジジュースは、とても気持ちがよい。

 子宮は、子供を育てる場所だ。当然、子供のためには、酸素をたくさん必要とするだろう。子宮内膜
が胎盤に変わり、臍の緒もできて、胎盤を通して酸素と共に栄養分を摂り入れる。子宮筋層は、その
胎盤を支えるために、これもまた酸素を他の臓器よりも必要とすると思う。妊娠以外の時だって、その
酸素消費量は小さくはないと思う。腺筋症の病巣は、ほかの子宮の組織よりも、より貪欲に酸素を必要
としている。がんが、自前の血管を作って自分自身が太るためにどんどん酸素と栄養を補給している
のはよく知られている。腺筋症も同だと思う。がんは、宿主である人間全体との統一などまるで考え
たりはしない。自分に都合がよければそれでいいのだ。腺筋症も多分、そうなのだろう。

 宿主である私の慢性的な酸素不足もなんのその腺筋症は、血流も減らさず、栄養分も酸素も
自分に都合がいいように横取りしているように感じる。誰かが、もっと節度を持てよと忠告してく
れればよいのだが、その忠告をする判断を下すセンサーがいかれているから、腺筋症になって
しまうのだろう。腺筋症もがん同様に常にそうならないための監視役がいて、その発症を防いで
いてくれるのだろう。しかし、一度、発症してしまうと完全に乗っ取られてしまうのだろう。

 子宮への酸素供給はもちろん、45歳を過ぎての更年期年齢の私は、これからの脳への酸素不足
がとっても気になっています。

第三十三章 信頼

 ある掲示板の中で、医者はいいねぇ。何でも言えば患者に信じてもらえるから。患者が患者間で
アドバイスをしても、患者の受け止め方は、でも、それは素人が言うことだからなぁ。ということに
なる。あまり内膜症や腺筋症のことを知らない医者であっても、産婦人科医であれば、かなり知識
が豊富な素人よりも、どんなレベルの低い医者が信用できるのだろう。それほど、医師免許を持って
いるという事実は、一般の人たちの間に染み込んでいるのだろう。

 昔に比べて医療過誤や医療事故が報道されたり、不必要に女性を裸にして写真やビデオに撮る
ようなとんでもない医者が出てきても、医者がそんなことをするはずがない。医者は患者のために
最善の方法を黙っていても選択してくれる。信頼して任せていれば間違いは起きない。テレビで
報道されている医療過誤や事件はあるけれど自分の身の上には起きないと考えているのでは
ないだろうか。

 地元の自助グループの会合でも必ず出て来るのが、患者に分かりやすく説明をしてくれて
的確に診断をして、出来れば手術もうまい医者と病院はどこだろうかということだ。最近は、
会員にはならずに、会合へやって来て、自分に関する情報は最低限にして、早速、自分の病気
についてのこれからの選択肢とその選択肢に合った治療方法。その治療方法が受けられる
病院と腕のよい医者について、せっかちに聞いてくる。まるで、それ以外は関心がないかの
ようだ。自助グループとは何か。自助グループの存在意義や目的などを考えている人は少ない。
どうやら自助グループならば、地元の病院や医者について、より具体的に多くの情報を持って
いるからと足を運んでくるようだ。

 病気の知識や治療方法については、インターネットを利用すれば殆どの場合は足りる。まして
や、皆さん、ADSL回線や光ファイバーで、常時接続環境の人間にとっては、何もわざわざ弱小
の地方の自助グループの会合に参加する必要もないだろう。良い医者と良い病院の口コミが
欲しい。実体験による蓄積による情報は、なかなかインターネットでは得られない。逆に考える
と、そうした良い病院と良い医者さえ分かればいいのだろう。その時点で、彼女にとっては、自助
グループは、必要がない。そういうことのようだ。最近は、はっきりとそう言う人もいる。

 信頼できる医者と病院が分かりさえすれば、あとは信頼の置ける医者に自分の病気について
適切な説明と治療を受けることができる。そういうところが、インターネットでは難しいので、自助
グループなら、もしかしてということのようだ。もっと、せっかち人でインターネットの匿名性や無料
であることに重点を置いている人は、管理人へ自分の病気について具体的に書き、良い病院
や医者を教えてくれとメールしてくる。掲示板ではなく、初めて人にメールする時は、本名を名乗る
のが当然だと私は思っていたのだが、ハンドルネームで、いきなり質問をし、色々と教えろと
書いてくるメールが増えてきている。

 相手は、駄目元という気持ちなのだろう。これが、医者のHPから、メールをし、相談をしてもらう
時はどうだろうか?いきなり、札幌のはっちゃんです。なんて出だしを書くものだろうか。要は、信頼
度の違いではないだろうか。医者は信用できるが、どこのどいつか得たいが知れない(と考えている
)自助グループの管理人相手に、メールをする時には、本名など名乗る必要はない。それほど信用
できないものに過ぎないのだろう。返事が来るかどうかも疑問なのだろう。それが証拠に、こちらが、
返信しても、ありがとうございました。例え役に立たなくても、ご面倒おかけしましたの一本のメール
も届きはしない。どこの患者会や自助グループも、人手不足で苦労しているのは、こうした人たちが
多いせいだと思う。患者に無関心な医者と同じくらいかそれ以上に、自分勝手な患者が多い。

 自助グループで講演会を開こうとするにしても、講師として医師免許を持つ者がいなければ、例え
新聞などを利用して情報を流しても、おそらく会場へ来る人は少ないことだろう。素人が体験談を
講演して、病気について色々と情報を提供しますと言っても、人は集まるとは思えない。ましてや、
主催者が全然名前が知られていない貧乏な自助グループだったら、尚更だろう。以前、婦人病
の自助グループとしては知名度があるところと共催で、筋腫と腺筋症の核出手術と全摘手術の
ビデオ上映会を開いたことがある。その時は、上映会後に、それぞれの病気のグループに分かれて
会合を持った。そのほかに、自助グループに今後期待するものについてアンケートを取った。

 アンケートの結果は、今日のような形の講演会や上映会を開いて欲しい。病気に関する冊子を
作って欲しい。電話相談をして欲しい。そういう意見が上位を占めていた。自分であっても、多分、
そう考えるだろう。講演会もし、電話相談もし、小冊子も作れば、自助グループとしての活動として
は、とても充実したものになるだろう。自助グループの知名度も上がるだろう。そして、それがまた
活動していく上での利点にもなっていくだろう。そうは分かっていてもできない。まず、活動する人が
いない。一人で何もかにもはできない。ましてや病気を抱えていては難しい。だから、気持ちはあって
も自分一人が動ける範囲内でしか活動ができない歯がゆさがある。

 腺筋症との関係は、人によって様々だろう。私にとって、腺筋症は人生に占める割合は大きいものだ。
腺筋症でどれだけ苦しんできたことか。一人で苦しんできた時間が長いだけに、腺筋症で苦しんでいる
人たちへの思いが募る。だから、お金にもならず、それどころかお金も手間もかかる活動を続けている。
私が、腺筋症と思い切りよく決別できる性格であれば、HPも自助グループも運営はしていない。

 自助グループの活動もそうだが、人から信頼されるということは本当に難しいことだ。誠実に地道に
腺筋症を取り巻く環境が良くなっていくように努力していきたいと思っている。私にできることは、たとえ
小さなささいなことだとしても、少しずつ行動していこうと思っている。

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